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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
…茶道具は逸子が既に揃えておいてくれた。
茶碗は古萩焼、茶入れは江戸初期のもの、薄器、茶杓も見事なものだ。
最初から逸子は、紫織にお手前させるつもりだったのかもしれない。
略式なので、紫織は畏まらずに客人たちにお茶を勧めることにした。
その方がリラックスしてお茶を楽しめるだろう。
…順番が来て丁寧に点てたお薄を二宮政彦に勧める。
まだ緊張しているのか、彼は真剣な面持ちで紫織を見つめていた。
気持ちを解すために、話しかけてみる。
「初めての聞香はいかがでしたか?」
「…はい。初心者ということで、基本的な香木の説明や源氏香のお話と幾つか聞香させていただきました。
…本当に雅な世界ですね…。正直、あまりに種類が多くて、なかなか違いは分からなかったのですが…清々しい気持ちになりました」
生真面目に答える青年からは、元来の育ちの良さと性格の良さが感じられた。
「それはよろしかったですね。
…これからもお時間がございましたら、山科先生のお教室にぜひお越しくださいね」
さりげなく勧誘を試みてみる。
逸子が紫織に嬉しそうに目配せをしてみせた。
紫織はにっこり微笑みかけながら、花びら餅を勧める。
すると、おずおずと政彦が尋ねてきた。
「…あの…北川さんはこちらで習っていらっしゃるのですか?」
「…いいえ。
私は二度ほどお邪魔しただけですの…」
「紫織さんは来月大学を卒業したら、外国へ留学されてしまうんですよ。
ほんまに惜しいこと…。
こんな飛び切り美人なお嬢さんが生徒さんで通ってくれはったら、ぱあっと花が咲いたように華やかになりますのにねえ…」
逸子が大袈裟に嘆くと、
「…え?…留学…。
どちらにですか?」
眉を顰め、政彦が意気込んだように尋ねた。
「…フランスのパリです。
イル・デ・フルール・パリというアロマテラピー養成学校に本格的にお勉強をしにまいります」
「…ああ…。そうなのですか…」
心なしか、政彦の口調が沈み込む。
彼はそのまま無言で茶碗を取り上げ、お薄を呑んだ。
「…本当に不器用なんだから…。
私の息子と思えないわ…」
篤子が溜息混じりに小さく呟いたが、紫織と眼が合うと…
「結構なお手前でございました。
…紫織さん、またお会いできると嬉しいですわね…」
と、含みを持たせた眼差しで笑ったのだった。
茶碗は古萩焼、茶入れは江戸初期のもの、薄器、茶杓も見事なものだ。
最初から逸子は、紫織にお手前させるつもりだったのかもしれない。
略式なので、紫織は畏まらずに客人たちにお茶を勧めることにした。
その方がリラックスしてお茶を楽しめるだろう。
…順番が来て丁寧に点てたお薄を二宮政彦に勧める。
まだ緊張しているのか、彼は真剣な面持ちで紫織を見つめていた。
気持ちを解すために、話しかけてみる。
「初めての聞香はいかがでしたか?」
「…はい。初心者ということで、基本的な香木の説明や源氏香のお話と幾つか聞香させていただきました。
…本当に雅な世界ですね…。正直、あまりに種類が多くて、なかなか違いは分からなかったのですが…清々しい気持ちになりました」
生真面目に答える青年からは、元来の育ちの良さと性格の良さが感じられた。
「それはよろしかったですね。
…これからもお時間がございましたら、山科先生のお教室にぜひお越しくださいね」
さりげなく勧誘を試みてみる。
逸子が紫織に嬉しそうに目配せをしてみせた。
紫織はにっこり微笑みかけながら、花びら餅を勧める。
すると、おずおずと政彦が尋ねてきた。
「…あの…北川さんはこちらで習っていらっしゃるのですか?」
「…いいえ。
私は二度ほどお邪魔しただけですの…」
「紫織さんは来月大学を卒業したら、外国へ留学されてしまうんですよ。
ほんまに惜しいこと…。
こんな飛び切り美人なお嬢さんが生徒さんで通ってくれはったら、ぱあっと花が咲いたように華やかになりますのにねえ…」
逸子が大袈裟に嘆くと、
「…え?…留学…。
どちらにですか?」
眉を顰め、政彦が意気込んだように尋ねた。
「…フランスのパリです。
イル・デ・フルール・パリというアロマテラピー養成学校に本格的にお勉強をしにまいります」
「…ああ…。そうなのですか…」
心なしか、政彦の口調が沈み込む。
彼はそのまま無言で茶碗を取り上げ、お薄を呑んだ。
「…本当に不器用なんだから…。
私の息子と思えないわ…」
篤子が溜息混じりに小さく呟いたが、紫織と眼が合うと…
「結構なお手前でございました。
…紫織さん、またお会いできると嬉しいですわね…」
と、含みを持たせた眼差しで笑ったのだった。