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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
それから数日後のことだ。
「紫織さん、紫織さん、ちょっとちょっと…もう大変な騒ぎやで。
あんた、やっぱりすごいなあ」
フランス語教室に行く準備をしていた紫織の部屋に曄子が足早に訪れた。
そうして、どこか浮き浮きとした様子で話しかけてきた。

「逸子さんから電話や電話。
逸子さんもえらい興奮してはるで。
ほんま、紫織さんはすごいお嬢さんやなあ…て」
「…私…何かしましたかしら?」
…何か粗相をしただろうか…。
どきどきしながら尋ねる。

曄子は手を振った。
「…二宮さんな、あんたが逸子さんのとこでご接待した方。
高遠さんの親戚の方。
…あの息子さんがあんたに一目惚れしてしもうたらしいわ。
それで、どうしてもあのお嬢さんをお嫁さんにしたいからなんとか口を聞いてもらえないかと、今朝逸子さんに電話があったらしいねんわ。
お付き合いやのうて、一足飛びに結婚やで?
いやあ、びっくりしたわ」

「…はあ…」
紫織の脳裏に、青年の眼鏡の奥の生真面目な瞳が思い浮かんだ。

…そう言えば、ずっと私のことを見つめていたっけ…。

やはり…という気持ちが強く、紫織はさして驚かなかった。
今までも、この手の話は時々起こったのだ。
…もっとも、いきなり結婚の話を出されたのは初めてだが…。

…けれど…

「…お気持ちは嬉しいですけれど、私は四月からフランスに留学しますので…」
留学もそうだが、結婚する気はない。
少なくとも、今はまだ…。

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