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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
『善は急げや』
逸子の仲立ちで、紫織は二宮政彦と翌週の土曜日に会うことが決まった。
正式なお見合いではなく、畏まらず、しかも二人きりで会いたいと言う政彦の意向から、ホテルのティールームで会うことになったのだ。
…指定されたホテルはリッツカールトン京都であった。
皮肉なものだと紫織は密かに苦笑した。

…堂島さんは、どうされているかしら…。
あの女慣れした…けれどどこか憎めない魅力を持った男をふっと思い返す。
堂島のことは、気負いなく思い出せるのに…。
…あのひとは…。
フラッシュバックのように脳裏に過ぎるのは、美しい榛色の瞳…。
…ううん…考えるのはやめよう…。
紫織は頭を振った。

「着物でのうて、ええのん?
せっかく綸子の加賀友禅のお振袖、用意したのに…」
残念そうにする曄子に
「二宮さんには普段の私を見ていただきたいの」
と、敢えてカジュアルなニットワンピース姿で会うことにしたのだ。
…最初から縁談は断るつもりでいるからだ。
着飾ることは、相手に期待を持たせることのような気がしたのだ。

二宮政彦が嫌いなのではない。
…まだどんなひとなのかもよく分からない。
良いひとのような気がするが…それが判ったとしても、どうするというのだ。
紫織は四月からパリに留学するのだ。
…パリで、アロマテラピーになるための勉強をするのだから…。
新しい人生を始めるのだから…。



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