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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
あまりに唐突なその言葉に、紫織は呆気に取られた。
「…そんな…いきなり…」
「本当に厚かましく非常識で失礼すぎる申し出なのは重々判っております。
けれど、今申し上げなくては紫織さんは僕の手の届かない遠くに行かれてしまう。
…そんなこと、僕には耐えられないのです」
それは、一見穏やかに見える躾の行き届いた品の良い青年の口から出たとは思えないほどに情熱的な言葉だった。

紫織は困ったように黙り込んだ。
…この如何にも善良そうで優しそうな一途な青年の申し出をどうやって傷つけずに断るのか…至難の業のように思えたからだ。

「フランス留学からお帰りになるまで待つことも考えました。
…けれど、貴女のように美しいひとはきっと外国でも放っては置かれないでしょう。
すぐに他の男性が紫織さんに近づき、僕なんかよりずっと魅力的な男性が紫織さんを奪ってしまうに違いないからです!
…フランス貴族の青年とか…!ドバイの王族とか…!
そうなったら太刀打ちできません!」
「…二宮さん…」
あまりに激情に駆られた…しかも想像力の豊かさに、唖然としたのち、紫織は思わず吹き出した。

くすくす笑い続ける紫織に、政彦はきょとんと眼を見張る。
「…紫織さん?」

「…ごめんなさい。だって、可笑しくて…。
…そんな…それじゃまるで私がハリウッドの超美人女優かお伽話のオーロラ姫みたい…。
…あり得ないんですもの…」
笑いが止まらない紫織に、政彦は頭を掻いた。
「…すみません…。僕は紫織さんを目の前にすると平常心を失くすみたいです」
…でも…
と、政彦は真剣な眼差しで続けた。
「…僕にとって紫織さんはオーロラ姫です…」

紫織はふっと苦笑した。
「…困りましたわね…」
…決して、この青年が嫌いではないから困るのだ。
このひとがもっと嫌なひとならよかったのに…。

政彦がやや不安げな表情で尋ねた。

「…あの…。
…紫織さんには今、お付き合いされている方や好きな方がいらっしゃいますか?」
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