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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
紫織の長い睫毛が微かに震え…しかし直ぐにそれは柔かな微笑みに取って替わられる。
…もう、あのひとのことを思い出すのは、止めにしなくては…。

「…いいえ。…おりませんわ…」

紫織の返答に、政彦は安堵の息を吐く。
「…それなら是非、僕との結婚を考えていただけませんか?」
強引な話の流れに、流石に紫織は美しい眉を顰める。
「そんな…。
それは余りに性急だわ。
それに…私は留学を取りやめるつもりもありません。
パリでたくさん薫りの勉強をして、一流のアロマテラピストになる目標があるのですから…」

「もし、紫織さんが僕と結婚してくださったら、僕は貴女の夢の協力を惜しみません。
全力でサポートいたします。
我が家には世間一般家庭よりは財産と不動産があります。
紫織さんがアロマテラピーのお勉強や研究が存分にできるよう、専用の建物を建てることをお約束します。
紫織さんが仕事に専念できるよう、家政婦を雇い入れます。
貴女が留学を諦めたことを決して後悔させません。
僕と結婚したことで、紫織さんにたくさんのメリットが得られるよう努力します。
…つまり、僕は貴女を経済的にも精神的にもバックアップすることをお誓いいたします」

…如何にも銀行家らしい現実的で緻密な計画だ。
紫織は皮肉めいた笑みを投げかけた。
「随分自信がおありなのね?
それに、失礼だわ。
…私が貴方のお金目当てで結婚すると思っていらっしゃるの?
私の家は二宮さんのおうちには及ばなくても、お金には不自由してはおりません」

「失礼は承知で申し上げております。
もちろん、紫織さんのお父様が大手商社の取締役のおひとりでいらっしゃることも存じ上げております。
…けれど、僕には紫織さんを引き止める手立てがこれくらいしかないのです。
…僕はこの通り面白味に欠ける男ですし、男としての魅力がある訳ではありませんから…」
政彦は寂しげに微笑んだ。

「…本当は僕は普段、こんなに厚かましくはないんです。
こんな図々しいお願いをして…今にも心臓が口から飛び出しそうです。
…紫織さん。僕は貴女に出会って、貴女に恋して、すべてが変わってしまったのです。
お願いです。
僕にチャンスをください」

熱い眼差しで紫織を見つめると縋るように懇願し、深々と頭を下げたのだ。






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