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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
「…それはえらいご執心やなあ…。
けど、結婚前から仕事場を建ててくれはる約束するなんて、二宮はん、本気なんやなあ…」
感心したように首を振る曄子は、どこか上機嫌だ。
紫織は曄子のためにお薄を点てると、小さくため息を吐いた。
居間で略式に点てるお薄だが、曄子は紫織の点てるお薄をとても気に入ってくれているのだ。
お薄に紫織の手作りのザッハトルテの組み合わせは最近の曄子の定番だ。
『紫織さんはほんま何やらせても器用やなあ。
これなんてお店に出せる味やねえ』
そう言いながら美味しそうに食べてくれるのだ。
母、蒔子とはなかった触れ合いを、紫織もしみじみと楽しんでいた。
「…本当に…困ってしまいます…」
「せやなあ。
強引は強引やけど、全部紫織さんのための条件やしなあ。
けど、結婚前から奥さんのやりたいことに全面的に協力してくれはる男性なんて貴重やで?
大抵の男は奥さんが仕事したい、しかも夢を追いかけたい言うとエエ貌せえへんからなあ。
ましてや、そんな大金惜しげもなく出すなんて…。
さすが高遠一族や。太っ腹やなあ」
「…でも、私…二宮さんと結婚するつもりはありません」
小声だがはっきりと言い放つ。
「なんで?」
「なんで…て…」
…なぜなら…二宮政彦に恋をしていないからだ。
「紫織さん、二宮はんに恋愛感情を持てないから?」
曄子は静かに志野の茶碗のお薄を一口飲む。
「…あんた、まだあの高校教師を忘れてへんのかいな…」
けど、結婚前から仕事場を建ててくれはる約束するなんて、二宮はん、本気なんやなあ…」
感心したように首を振る曄子は、どこか上機嫌だ。
紫織は曄子のためにお薄を点てると、小さくため息を吐いた。
居間で略式に点てるお薄だが、曄子は紫織の点てるお薄をとても気に入ってくれているのだ。
お薄に紫織の手作りのザッハトルテの組み合わせは最近の曄子の定番だ。
『紫織さんはほんま何やらせても器用やなあ。
これなんてお店に出せる味やねえ』
そう言いながら美味しそうに食べてくれるのだ。
母、蒔子とはなかった触れ合いを、紫織もしみじみと楽しんでいた。
「…本当に…困ってしまいます…」
「せやなあ。
強引は強引やけど、全部紫織さんのための条件やしなあ。
けど、結婚前から奥さんのやりたいことに全面的に協力してくれはる男性なんて貴重やで?
大抵の男は奥さんが仕事したい、しかも夢を追いかけたい言うとエエ貌せえへんからなあ。
ましてや、そんな大金惜しげもなく出すなんて…。
さすが高遠一族や。太っ腹やなあ」
「…でも、私…二宮さんと結婚するつもりはありません」
小声だがはっきりと言い放つ。
「なんで?」
「なんで…て…」
…なぜなら…二宮政彦に恋をしていないからだ。
「紫織さん、二宮はんに恋愛感情を持てないから?」
曄子は静かに志野の茶碗のお薄を一口飲む。
「…あんた、まだあの高校教師を忘れてへんのかいな…」