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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
「…叔母様…」
紫織は絶句する。

「…紫織さん、まだ忘れてへんのやねえ…」
責めるわけではなくしみじみと呟く。
そうして、優しく諭すように続けた。

「紫織さんのそういうとこ、うちは女らしゅうてええと思うけど、それじゃあ幸せになれへんよ。
うちもなあ、初恋のひとが忘れられへんで、若い頃あった縁談に見向きもせえへんかったん。
好きなひとと結ばれんのやったら結婚なんてせえへんて頑なになってなあ」
…けどなあ…。
曄子の面高な横貌が寂しげに微笑む。
「今になって思うねん。
うちのこと好きや言うてくれたひとの中には、優しくて頼もしいええひともおったん。
もし、そのひとと結婚してたら、今頃紫織さんみたいに可愛らしい娘なんかも授かってたんやろかなあ…、そしたら楽しかったやろうなあ…て…」
「…叔母様…」

「紫織さん。
恋愛と結婚は別やで。
その高校教師とあんたがもし結婚していたとしても、上手くいっていたかは判らんよ。
二宮はんは真面目で誠実なおひとや。
ええ夫、ええ父親になるタイプや。
何より紫織さんにほんまに惚れてはる。
…古臭いこと言うと思うかも知れんけどなあ…女はなあ、やっぱり愛されて求められて結婚するのが幸せや。
その方が結婚生活は上手くいくし、何よりずうっと大切にしてもらえる。
うちはたくさんのおなごはんやおとこはんを見てきたから、それはよう分かるねん」
…だからなあ…

曄子は紫織の白い手を握りしめた。

「…よう考えや。
自分が幸せになる道を…頑なにならずになあ…」
曄子のその手からは切々とした愛情しか伝わらず、紫織は口を噤むしかなかったのだ。



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