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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
間髪を入れず…といった風に政彦の母、篤子が北山の家を訪ねてきたのはその翌々日のことであった。

一応、山科逸子を通して朝、連絡はあったが、突然の訪問に紫織は慌てた。

「ごめんなさいねえ、紫織さん。
突然伺って…。
こんなご無礼して、お許しくださいね」

玄関先で朗らかに頭を下げる篤子は、今まさに高級美容院で髪をセットしたばかりといったセレブマダムの様子だ。
最新のシャネルのスーツを身に纏い、エルメスのバーキンを持ったその姿は如何にも金満家夫人という感じだが、一筋縄ではいかないようなオーラと風格があるのは、手掛ける宝石店を成功に導いていると言う自信の現れだろうか。

不意の篤子の訪問に戸惑う紫織を他所に、曄子は丁寧に静々と出迎える。
「ようお越しやす。
初めまして。紫織の叔母の岡倉曄子と申します。
…先日は紫織が山科さんとこで、無調法いたしませんでしたでしょうか?」

篤子は賑やかに手を振って応えた。
「とんでもございません。
…こちらこそ、うちの息子が紫織さんにお会いして、すっかり心を奪われてしまって…。
まあ、不躾に大騒ぎのプロポーズをいたしまして…。
色々とご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません」

篤子の謝罪の言葉を聞き、ほっとしたのも束の間…

「…今日はお詫びと…。
改めて、紫織さんをお嫁様にいただきたい旨のお願いにまいりましたのよ」

篤子の華やかな貌には如何にも手練手管に優れた…けれどどこか憎めないような満面の笑みが浮かんでいたのだった。


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