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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
「…さすがは女実業家やなあ。
えらい進歩的な奥さんやわ」
篤子が帰ったのち、曄子はしきりに感心してみせた。

そうして、紫織の方を向き直る。
「…紫織さん。
何度も言うようだけどなあ、こんなにええ話はそうそうないと思うわ。
旦那さんになるひとが優しゅうて話の分かるひと言うのはまあまあある話やけど、お姑さんになるひともそうや言うのは滅多にないで。
わざわざフランスに留学せんでも日本で伸び伸び好きなように勉強できるんやで?
それも婚家のお金でや。
それだけあんたをどうしてもお嫁に欲しいてことや。
ありがたいことやないの。
それに…あんたと蒔子さんの関係も気にせえへん言うてくれてたやないの。
そんな理解あるお姑さんは、普通はおらへんよ?」

「…そうかもしれませんね…」
紫織も今や、断る意思は揺らぎつつあった。

まず、政彦自身が嫌いではないと言うこと…。
自分を熱愛してくれていること…。

『藤木のことを忘れなくていいから、君を愛するひとと幸せになってくれ』
そう言ったのは、堂島だった。

『君はきっと良いお母さんになるな』
…そう言ったのは…
あの榛色の美しい瞳の男だ…。

…あのひと以外のひとと、人生を生きる…。
それで幸せになれるのだろうか…。

想いに沈む紫織の鼓膜に、曄子の静かな声が忍びこむ。

「…あんた、蒔子さんに言うたんやろ?
『私は誰よりも美しい人生を生きてみせる。
誰もが羨むような人生を生きる。
ひたすらに愛されて、満たされて、欲しいものはすべて手に入れて、誰からも賞賛されるような完璧なひとになる。
そして、完璧な美しい人生を生きる。
それがお母様への復讐だ』て…」
「叔母様…!」

息を呑む紫織に、曄子は慈しみに似た眼差しで語りかけた。

「…今こそ、その決断をするときやないの…?」




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