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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
「山科さんから紫織さんのお返事を聞いて…居ても立っても居られずに新幹線に飛び乗ってしまいました」
政彦が高揚したように…けれどどこか遠慮勝ちに語り出す。
北山の家の庭の白梅は今が見頃である。
あえかなその甘い薫香は、春の訪れを風雅に告げるものだ。
その梅を政彦に案内することを薦めたのは曄子だった。
…恐らく、二人きりで話をさせようと心を砕いたのだろう。
「…二宮さん…」
紫織はややはにかんだように、隣の背の高い青年を見上げた。
…紫織が政彦のプロポーズを正式に承諾する旨を、今や事実上の仲人となった山科逸子に伝えたのは昨日のことだった。
紅梅色の越後格子縞の紬に八寸帯を締めた紫織を、政彦は眩しげに見下ろした。
紫織はそっと微笑む。
「昨日までお仕事でお疲れでしょうに…」
政彦は首を振る。
眼鏡の奥の理知的な瞳が熱を帯びていた。
「信じられなくて、ずっと夢を見ているような気持ちでした。
…今もです…。
…本当に…私と結婚していただけるのですか?」
紫織は小さく頷いた。
「…お返事をお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした…。
色々考えさせていただいて…私でよろしければ…と決心が着きました」
「良かった…!」
深いため息混じりに、青年は呟いた。
「貴女を幸せにします。大切にします。
生涯、変わらずに…」
不器用に辿々しく続ける政彦に、温かい気持ちになりながらも…紫織はひとつの決意を固めていた。
「…ただ、その前に聞いていただきたいことがあります」
政彦が不思議そうに瞬きをした。
「何でしょう?」
深く息を吸い込み一呼吸置いて、紫織は紅い口唇を開いた。
その漆黒の瞳で、政彦をひたりと見つめる。
「…私は…処女ではありません」
政彦が高揚したように…けれどどこか遠慮勝ちに語り出す。
北山の家の庭の白梅は今が見頃である。
あえかなその甘い薫香は、春の訪れを風雅に告げるものだ。
その梅を政彦に案内することを薦めたのは曄子だった。
…恐らく、二人きりで話をさせようと心を砕いたのだろう。
「…二宮さん…」
紫織はややはにかんだように、隣の背の高い青年を見上げた。
…紫織が政彦のプロポーズを正式に承諾する旨を、今や事実上の仲人となった山科逸子に伝えたのは昨日のことだった。
紅梅色の越後格子縞の紬に八寸帯を締めた紫織を、政彦は眩しげに見下ろした。
紫織はそっと微笑む。
「昨日までお仕事でお疲れでしょうに…」
政彦は首を振る。
眼鏡の奥の理知的な瞳が熱を帯びていた。
「信じられなくて、ずっと夢を見ているような気持ちでした。
…今もです…。
…本当に…私と結婚していただけるのですか?」
紫織は小さく頷いた。
「…お返事をお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした…。
色々考えさせていただいて…私でよろしければ…と決心が着きました」
「良かった…!」
深いため息混じりに、青年は呟いた。
「貴女を幸せにします。大切にします。
生涯、変わらずに…」
不器用に辿々しく続ける政彦に、温かい気持ちになりながらも…紫織はひとつの決意を固めていた。
「…ただ、その前に聞いていただきたいことがあります」
政彦が不思議そうに瞬きをした。
「何でしょう?」
深く息を吸い込み一呼吸置いて、紫織は紅い口唇を開いた。
その漆黒の瞳で、政彦をひたりと見つめる。
「…私は…処女ではありません」