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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
「紫織さん、僕の隣にお座りください」
美しい英国式庭園に設えられた広いアフタヌーンティー用のテーブルに、千晴は紫織をいざなった。
その手入れの行き届いたしなやかな手を差し伸べ、エスコートする様は普通の中学生ではない。
…この作りもののように美しい少年が成人したら、この家…いや、高遠一族を統べる当主となるのだ。
紫織は噂に聞く高遠家の重厚で錚々たる歴史を密かに感じた。

テーブルの上には、白い麻の幌がかけられ春の眩しい陽射しは遮られ、ゆっくりお茶を楽しむことが出来る。
染みひとつない純白のクロスが敷かれたテーブルの上には古く希少なロイヤルコペンハーゲンの茶器やぴかぴかに磨き上げられた銀のカトラリーが並べられ、この一族の時代錯誤とも言える伝統的な暮らしぶりを静かに物語っていた。

薫り高いダージリンが、裾の長い黒い制服に身を包んだ無表情の侍女によって正しい作法に則り、恭しく注がれた。

…政彦は畏ったように徳子と話し込んでいる。
恐らくは急遽挙げることになった結婚式についての打ち合わせだろう。
…まさかこの屋敷で結婚式を挙げることになるとは、政彦も想像していなかったことらしい。

『高遠ご本家で結婚式を挙げられるのは、一族の中でも選ばれたものだけなのですよ…。
高遠夫人が特別に許可したものしか、挙式は許されないのです。
大変に名誉なことなのです』
先ほど、やや興奮したように政彦は紫織に囁いたのだ。

「緊張していらっしゃいますか?
お祖母様が急にあんなことを仰ったから…」
気遣うようにそっと尋ねる千晴の瞳が、鳶色に輝いていた。
その美しい瞳に一瞬見惚れる。
…陽に透けると鳶色…というか、琥珀色に近い色だわ…。
かつて、憧れた茶色のようなオリーブグリーンのような碧のような不思議な榛色を彷彿させる…。
…いや、考えるのはやめよう…。

紫織はにっこりと笑う。
「ありがとうございます。お気遣いいただいて…。
…そうですね。
無作法をしないか、少し緊張しています」
紫織の笑顔に、少年は美しい瞳を見張り…やがて、その滑らかな象牙色の肌を微かに紅潮させ、口を開いた。

「…僕はとても嬉しいです。
紫織さんの花嫁姿を拝見できる…。
…貴女の花嫁姿は、きっと息が止まるほどに美しいでしょうね…」

…そして、小さく…意思を持って付け加えた。

「…政彦兄さんが、羨ましくて妬ましい…」

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