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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
千晴は何かに目覚めたかのように、慌ただしくラボを後にした。
紫織を振り返ることはついぞなかった。

紫織はその後ろ姿を、いつまでも見送った。

…「…さよなら。千晴さん…」
声に出して、別れを告げた。

長く、甘く切ない恋の夢を見させてもらった男に去られても、紫織は不思議と寂しさを覚えなかった。
これで、紗耶に千晴を帰すことが出来た安堵が先に立った。

…けれど…。

ラボの机の上に置かれた紅色のフロストの球体の香水を振り返る。
…遠い異国の媚薬のように妖しげなその香水が、二十年の歳月を経て、紫織の心を捉えて離さないのだ。

…私は…過去の恋の呪縛から解き放たれるのだろうか…。
その怯えと不安が紫織をひんやりと支配する。

紫織は、そっとため息を吐いた。

微かに纏わりつく甘く苦い恋の薫りは、容易に紫織から離れようとしないのだ…。



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