この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
その夜、紫織は寝室のドレッサーの前に座り、長い髪にブラシを当てていた。
入浴後、まだ少し湿り気を帯びた髪は夏の夜でもひんやりと指に絡み付いた。
…開け放った窓からは、窓枠に誘引しているディープカップ咲きのセント・セシリアのミルラ香が仄かに漂う。
鏡台の前に置かれた紅い球体のミスオブ沙棗に眼を遣り、紫織はため息を吐く。
…やはり、捨てることが出来なかった…。
…そう…。
私は…まだ…あのひとを…
静かにドアが開く音がして、入浴を終えた政彦が姿を現した。
…生成りのストライプのパジャマに薄いガウンを羽織っている。
身嗜みの良い政彦は、夏の湯上がりでも常にきちんとした服装だ。
鏡越しに眼が合うと、政彦は眩しげに眼を細め微笑んだ。
眼鏡を外しているせいか、歳より若々しく見える。
政彦はそっと背後から優しく紫織を抱きしめた。
「…綺麗だよ、紫織…」
まだ湿り気を帯びた紫織の艶やかな黒髪に唇を押し当てられる。
…政彦は一瞬、動きを止め…
「…いい匂いだね…。
…珍しいね…。市販の香水を付けているの?」
いつもはオリジナルのフレグランスを付けているのを政彦は熟知している。
紫織はどきりとし、曖昧に微笑んだ。
「…昔使っていた香水がたまたま出てきたから…気まぐれに付けてみたの…」
「…そう…。
いい匂いだ…。蜜のように甘くて…どこか切ない薫りだね…」
政彦の吐息が熱くなり、白くほっそりしたうなじに唇を強く押し付けられる。
「…あ…っ…」
思わず身を捩る紫織を、引き締まった腕が抱き上げる。
「…紫織…。
ベッドに行こう…」
夫の穏やかな瞳に、欲情の熱が帯びていた…。
入浴後、まだ少し湿り気を帯びた髪は夏の夜でもひんやりと指に絡み付いた。
…開け放った窓からは、窓枠に誘引しているディープカップ咲きのセント・セシリアのミルラ香が仄かに漂う。
鏡台の前に置かれた紅い球体のミスオブ沙棗に眼を遣り、紫織はため息を吐く。
…やはり、捨てることが出来なかった…。
…そう…。
私は…まだ…あのひとを…
静かにドアが開く音がして、入浴を終えた政彦が姿を現した。
…生成りのストライプのパジャマに薄いガウンを羽織っている。
身嗜みの良い政彦は、夏の湯上がりでも常にきちんとした服装だ。
鏡越しに眼が合うと、政彦は眩しげに眼を細め微笑んだ。
眼鏡を外しているせいか、歳より若々しく見える。
政彦はそっと背後から優しく紫織を抱きしめた。
「…綺麗だよ、紫織…」
まだ湿り気を帯びた紫織の艶やかな黒髪に唇を押し当てられる。
…政彦は一瞬、動きを止め…
「…いい匂いだね…。
…珍しいね…。市販の香水を付けているの?」
いつもはオリジナルのフレグランスを付けているのを政彦は熟知している。
紫織はどきりとし、曖昧に微笑んだ。
「…昔使っていた香水がたまたま出てきたから…気まぐれに付けてみたの…」
「…そう…。
いい匂いだ…。蜜のように甘くて…どこか切ない薫りだね…」
政彦の吐息が熱くなり、白くほっそりしたうなじに唇を強く押し付けられる。
「…あ…っ…」
思わず身を捩る紫織を、引き締まった腕が抱き上げる。
「…紫織…。
ベッドに行こう…」
夫の穏やかな瞳に、欲情の熱が帯びていた…。