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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
翌日、紫織は東京都下の療養所を訪れた。

…精神病棟を併設した有料高級老人ケアハウス…。
母、蒔子はここに数年前から長期入院しているのだ。

「あら、北川さんのお嬢さん。いらっしゃい。
お久しぶりね。
お母様は中庭にいらっしゃるわ。
今日はとてもご機嫌がよろしいわよ」
年嵩のこの施設のナース長が紫織に気さくに声をかける。
「母がお世話になっております。
いつも、ありがとうございます」
ナース長に菓子折りを渡し挨拶を終えると、中庭へと続く遊歩道を歩む。

…熊蝉が激しいシャワーのような音を立てて、頭上の欅の木で鳴き声を上げる。
熊蝉なんて、珍しい…。
あの蝉は西日本に生息しているのではなかったかしら…。
ぼんやりと関係ないことを思い浮かべる。
理由は分かっている。

…蒔子に会うのが憂鬱だからだ…。

いつもは、紗耶が一緒に来てくれた…。
あの娘は優しくて…蒔子の世話や話し相手を一日中細やかにしてくれたっけ…。

『お母様、今日はお庭の桜を持っておばあちゃまのところにまいりましょうよ。
お母様が作った桜餅もいっしょに…。きっと喜ばれるわ』
…母親と祖母の微妙な関係を察した上で、さりげない気配りや気遣いができる娘だった。

…紗耶ちゃん…。
貴女がいたら…。

気弱な自分にため息を吐き、意を決して遊歩道を歩き出す。

美しい芝生が広がる中庭の端、小さな池の畔に、母の姿はあった。
…夏の日差しに溶けてしまいそうに薄い身体にどきりとする。

…こんなに痩せて、小さなひとだったかしら…。

「…お母様…」
背後からそっと声をかけると、車椅子に座った蒔子が振り返る。

「あら、紫織さん」
細面の白い貌…。
柔かな笑みを浮かべ、蒔子は尋ねた。

「今日も遅かったのですね。
生徒会のお仕事?」

紫織は息を整えると、頷いた。

「…ええ、お母様。
生徒会の仕事が長引いたの。
ようやく終わったわ…」

…そうして、蒔子の車椅子の脇に腰を下ろし、小さく微笑んだ。

「…ただいま、お母様…」
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