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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
白い夏の呂の着物を身に纏った曄子がゆっくりと歩み寄る。
そうして、風に揺れる蒔子の髪を姉らしい優しい仕草で直してやる。
「…蒔子ちゃんは、あんたを憎んでいたわけやないんよ。
あんたを愛せない自分を憎んでいたんよ」
「…そんな…」
…かつて蒔子は、曄子に言っていたではないか。
紫織を愛せない、紫織が生まれたことは幸いではないと…。
あの衝撃と哀しみは、未だに紫織の胸に棘となって刺さったままだ。
「ずっと言わんとこうと思うとったけどなあ、蒔子ちゃんは小さい時に、うちらとは離れて育ったんよ。
あたしらのお母さんが産後の肥立ちがようなくてなあ。
…まあ、今でいう産後鬱やな。
それで蒔子ちゃんは小学校に上がる年まで、親戚筋の子どもがおらん家に里子に出されて育てられたんよ。
戻ってきても、お母さんは蒔子ちゃんにはなんや冷とうてなあ…。
ずっと離れていたから仕方ないけど、最後まで蒔子ちゃんには他人行儀やったんよ。
だから、蒔子ちゃんはお母さんの愛情を知らんのよ。
あたしはそんな蒔子ちゃんが不憫で、なるべく気にかけてやってたけど…母親と姉とは違うしなあ…。
…蒔子ちゃん、寂しかったと思うわ…」
捉え所のない表情で、夏の日差しに輝く池の水面を見つめる蒔子を、慈しみの眼差しで曄子は見遣る。
「…蒔子ちゃん、あんたが産まれたときに言うてたんや。
…自分は母親に愛されたことがないから、この子を愛する自信がない。
愛がどういうものか分からないから、与えることが出来ない…。
だから、この子は不幸になるんじゃないか…。
愛が分からない母親に育てられて、この子は本当に可哀想だ…てなあ。
…それはそれは哀しそうに言うてたんよ…」
そうして、風に揺れる蒔子の髪を姉らしい優しい仕草で直してやる。
「…蒔子ちゃんは、あんたを憎んでいたわけやないんよ。
あんたを愛せない自分を憎んでいたんよ」
「…そんな…」
…かつて蒔子は、曄子に言っていたではないか。
紫織を愛せない、紫織が生まれたことは幸いではないと…。
あの衝撃と哀しみは、未だに紫織の胸に棘となって刺さったままだ。
「ずっと言わんとこうと思うとったけどなあ、蒔子ちゃんは小さい時に、うちらとは離れて育ったんよ。
あたしらのお母さんが産後の肥立ちがようなくてなあ。
…まあ、今でいう産後鬱やな。
それで蒔子ちゃんは小学校に上がる年まで、親戚筋の子どもがおらん家に里子に出されて育てられたんよ。
戻ってきても、お母さんは蒔子ちゃんにはなんや冷とうてなあ…。
ずっと離れていたから仕方ないけど、最後まで蒔子ちゃんには他人行儀やったんよ。
だから、蒔子ちゃんはお母さんの愛情を知らんのよ。
あたしはそんな蒔子ちゃんが不憫で、なるべく気にかけてやってたけど…母親と姉とは違うしなあ…。
…蒔子ちゃん、寂しかったと思うわ…」
捉え所のない表情で、夏の日差しに輝く池の水面を見つめる蒔子を、慈しみの眼差しで曄子は見遣る。
「…蒔子ちゃん、あんたが産まれたときに言うてたんや。
…自分は母親に愛されたことがないから、この子を愛する自信がない。
愛がどういうものか分からないから、与えることが出来ない…。
だから、この子は不幸になるんじゃないか…。
愛が分からない母親に育てられて、この子は本当に可哀想だ…てなあ。
…それはそれは哀しそうに言うてたんよ…」