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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…ここの先生と相談したら、環境を変えることで精神状態が良くなることがままあるらしいねん。
転地療法が上手く行けば、穏やかに普通の生活を送れることも可能やそうや。
…今の東京の家は…蒔子ちゃんには苦しい記憶ばかり思い起こしてしまうよってなあ…。
それなら京都であたしと暮らした方が蒔子ちゃんにとってはええんやないか…て。
…どうせあたしは独身の気楽な身の上やしなあ。
ちっともかまへんのよ」

「…叔母様…」
…曄子の温かさ、寛大さが身に染みる。
母がいなくなる…。
ほっとするような…けれど不思議に心にぽっかり穴が空いたような気持ちに支配される。

「…そんで、亮介さんとは正式に離婚するのがええと思うねん。
蒔子ちゃんはとっくに離婚届に判を押してはるのよ。
亮介さんが、こんな蒔子ちゃんを見捨てるように離婚はできないと頑として拒んではるだけでなあ…。
…まあ、色々あったけれどあのひとも、蒔子ちゃんのことを心配してはったんやなあ…」
「…そう…ですか…」
父親が母親をそんな風に思っていたのかと、意外でもあり驚きでもあった。
…愛などない夫婦だと思っていた…。
確かに亮介に蒔子への愛はないかも知れない。
けれど、なんらかの情はあるのではないか…。
それが分かり、紫織の胸は泣きたくなるような切ない感情に満たされる。
…すべてを許す訳ではないが、ほんの少し蒔子を理解できるような気がしたのだ。

「…実はなあ、その恋人だった職人さんがなあ、まだずっと独り身なんよ。
それで、蒔子ちゃんの病気や今の状態を話したら、ぜひ世話をしたいて言うてくれてなあ。
…今更蒔子ちゃんとどうこうなるつもりはない。
ただ、蒔子ちゃんの貌を見て、側にいたい…。
お茶を飲みながら話をして…できたら蒔子ちゃんの笑顔が見たい…てなあ」

「…叔母様…」
涙に歪んだ視界の中で、曄子の白い貌に透明な涙が伝っていた。
「なんやえらいロマンチストな男はんやよねえ。
けどなあ、紫織さん。こんな話だけ聞いたらなんや高倉健みたいやけど、実物は芦屋雁之助やからね。
笑ろてしまうわ」

そう泣き笑いの表情で、曄子は笑い飛ばしたのだった。




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