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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
…そろそろ面会の時間が終わる。

紫織が蒔子に別れの挨拶をしようとした時、一陣の風が吹き、蒔子の藍染の浴衣の襟元から小さなレースのハンカチがひらひらと舞いあがった。

「…あ…」
蒔子が不安そうな表情をして、ハンカチの行方を眼で追う。
「お母様、私が…」
紫織があとを追う。

近くを通りかかった蒔子の担当のナースが風に飛ばされたハンカチを素早く拾い、紫織ににこにこしながら手渡した。

「これ、北川さんが一番大切にされているハンカチなんですよ。
これがないと、ずっと心配そうに探していらっしゃってね。
いつも肌身離さず持っていらっしゃるの」

「…そうなんですか…。
随分年季が入ったものだわ…」
…言いながらハンカチを何気なく広げ、眼が釘付けになる。

「…このハンカチ…」
…レースの端に、拙いイニシャルの刺繍が施されている…。

…これは…

「どうしたん?紫織さん」
曄子が不思議そうに近づく。

「…これ…私が小学生の時にお母様にプレゼントしたハンカチです…」
…母の日のために、家庭科で作ったハンカチだ。
イニシャルのMとKが小学生の紫織にはとても難しかった…。

あまり上手く刺繍できなかったけれど、ママは喜んでくれるかな…?
期待と不安半分ずつで蒔子に手渡した。

…けれど…
蒔子はいつもと変わらず表情の見えない白い貌をにこりともさせず
「ありがとう。紫織さん」
と、極めて事務的に礼を言っただけだった。

紫織は心底がっかりした。
…やっぱり、私があげるものなんて、ママは喜びもしないのだ…と。

「そうそう。お嬢さんが昔、母の日にプレゼントしてくれたんだって、北川さん嬉しそうに何度も話してくださるんですよ。
いいお嬢さんですねえ、て言ったら…そうなのよ、本当に良い子なの…て、いつもそればかり…。
ねえ、北川さん」
陽気な看護師の言葉が耳を通り過ぎる。
握りしめたハンカチの上に、涙がとめどなく溢れ落ちる。

…と、紫織の濡れた頰に、蒔子の温かな細い指先が触れた。
「…紫織さん…」
そして…
…ごめんなさいね…。
小さいけれど確かに蒔子の声が、鼓膜に響いたのだ。

蒔子の膝に子どものように貌を埋める。
「…ママ…!」
そうして幼い頃の呼び名で母を呼び、紫織はひたすらに泣きじゃくったのだった。




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