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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…先生…。
先生は…ニューヨークにいらっしゃったのでは…」
…こんな時に、凡庸なつまらぬ言葉しか出てこないのが歯がゆい。
もっと…もっと言うべき言葉があるのに…。

藤木が紫織を見つめながら答えた。
「…先月、帰国したんだ。
…実は…」

…その時だ。

ホワイエの奥から、不意に若い男がつかつかと現れた。

「パパ、ここにいたの?
探したよ…」

…パパ…?
思わず振り返る先にいたのは…

すらりとした長身の…まだ若い青年だった。
貌立ちが驚くほどに藤木に似ている。
…榛色の瞳、涼しげで端正な目鼻立ち…。

…ビッグシルエットのカジュアルな半袖シャツにゆったりとしたチノパンツ、アディダスのスニーカーと、如何にも若者らしいファッションだ。

その青年は紫織を認めると、驚いたようにその榛色の瞳を見開いた。

「…パパ…。このひと…」
…少し棘が含まれた声だった。

「…ああ、紹介しよう。
こちらは…」

藤木に告げられる前に、先に答える。
「先生の昔の教え子です」

「…へえ…」
どこか疑ったような眼差しで、青年は紫織を無遠慮に眺めた。

「…そう。日本で高校教師をしていた時の教え子だ。
…北川…いや、今は二宮…紫織さんだったね…」

紫織は息を呑む。
「…ご存知なの…?
…私の…今の名前…」
藤木が少し寂しげに微笑んだ。
「…もちろん知っているよ…。
…君のことは、知らずにはいられなかったからね…」

傍らの青年が焦れたように藤木をつっつく。
「パパ…」

「…ああ、そうだ。
紹介するよ。
…息子の紫音だ。…紫の音と書く…」
藤木の、熱い眼差しが紫織を射抜く。

…あまりに衝撃的なことが一度に押し寄せ、紫織は言葉を失う。

…先生の息子…
ううん。…結婚しているんですもの。
お子さんがいたって、おかしくはないわ…。
…でも…私に似た…名前…。
そして、先生は…私の今の名前も知っていた…。

「…息子が秋から日本の大学に通うことになってね。
それで一緒に帰国したんだ。
…それから…」

榛色の瞳が、紫織を深く捉える。

「…離婚したんだ。…妻と…」








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