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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…良かったのですか?
息子さんをお一人で帰して…」
国際フォーラムの展望カフェラウンジに向かい合わせに座り、紫織は尋ねる。
一枚硝子の窓に、藤木の姿が映るのをまだ夢のようにぼんやりと感じる。
…そう。これは夢なのかもしれない…。

「いいんだ。
彼はこれから日本の友だちと会うらしいから。
今日は別行動のつもりだったんだ。
なぜか講演会について来るって気まぐれを言い出してね…」

「…そうですか…。
…でも…先生に良く似ていて…驚いたわ…。
…まるで、双子みたいに…」

先ほど、別れ際に紫織を何か言いたげな眼差しで見つめていた青年を思い出す。

「…お幾つなんですか?」
「十八だ」
「…私の娘と同い年ね…」
呟くと藤木がふと、切なさが透ける表情をした。

「…そうだったね…。お嬢さんがいるんだったね…。
君が載っていた雑誌の記事で知ったよ。
今は世界のどこにいても電子で日本の雑誌を読むことをできる」
「…そう…。それで…」
ある女性誌がアロマの特集を組んだ時、紫織が取材されたことがあった。私生活についても話した。
その時のことかもしれない。
「とてもそんな大きなお嬢さんがいるように見えないな…。
君は、あの頃のままのように若く美しい…。
…いや、あの頃よりもっと、近寄り難いくらいに綺麗だ…」
榛色の瞳が眩しげに…高い温度を持って見つめるのに、胸がきゅっと締め付けられる。
…まるで…あの頃のように…。
「そんな…そんなわけ、ないでしょう…。
…もう、四十よ…。
すっかりおばさんだわ…」
白い頰を染めて俯く。
膝に視線を落とし、自分の服を見直す。

…薄い水色地に白い小花が描かれた夏のワンピースに白のサマーニット…。クリーム色のパンプスは中ヒールだ。
バッグはエルメスのバーキン…。
長い髪は軽くカールさせ、バレッタで纏めてきた。
一応、きちんとした装いではあるが、そこまで華やかでも若々しくもない。

「いや、本当に綺麗だよ。
綺麗すぎて、息が止まるかと思った…」
熱い眼差しと、その言葉に魅入られるように藤木を見つめる。

「…藤木先生…」

…その時、テーブルに置いたスマートフォンが着信音を鳴らした。

画面の名前を見て、息を飲む。
素早くスマートフォンの着信ボタンを押した。

『…もしもし、紫織?
まだ帰ってないのかな?』

…政彦からの電話だった。







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