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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
…触れ合ったのは、あの別れの日以来だった。
冷たく突き放されたあの手の冷たさを、紫織はまだ覚えていた。
だから、この温かな手は、幻のように感じる。
「君を愛している。
ずっと、忘れられなかった…。
僕の心にはいつも君がいた。
いや、君しかいなかった…」
…聞きたくて堪らなかった言葉も…
「…そんな…」
…だめだ…。
この言葉に…引き摺られては…
紫織は想いを断ち切るように、その温かな手を振り払った。
「やめてください…!」
立ち上がり、眼を伏せる。
「…そんなことを仰るなら…帰らせていただきます。
…私…私は…」
…言わなければ…
それが…例え、嘘だとしても…。
紫織は眼を上げる。
必死に口元に笑みを浮かべる。
…笑わなきゃ…笑って、さよならを言わなきゃ…。
「…私はもう、貴方のことを何とも思ってないわ…。
もう…忘れたの…何もかも…」
「…紫織…」
藤木の美しい榛色の瞳が哀しげに細められた。
「…私には優しい主人と可愛い娘がいて…とても幸せなの…。
今更、家庭に波風を立てる気はないの。
…だから…帰らせていただきます…」
頭を下げ、男に背を向ける。
歩き始めたその刹那、声が掛かった。
「待って、紫織」
強張る背中に、穏やかな声が追いかける。
「…分かったよ。
君を困らせるようなことはしない。
…だから、ここにいてくれ。
…話がしたいんだ…」
ゆっくりと振り返る。
…昔と少しも変わらない…どこか気弱な…所在なげな眼差しの藤木がいた。
「…話をしよう、紫織…。
お願いだ…」
冷たく突き放されたあの手の冷たさを、紫織はまだ覚えていた。
だから、この温かな手は、幻のように感じる。
「君を愛している。
ずっと、忘れられなかった…。
僕の心にはいつも君がいた。
いや、君しかいなかった…」
…聞きたくて堪らなかった言葉も…
「…そんな…」
…だめだ…。
この言葉に…引き摺られては…
紫織は想いを断ち切るように、その温かな手を振り払った。
「やめてください…!」
立ち上がり、眼を伏せる。
「…そんなことを仰るなら…帰らせていただきます。
…私…私は…」
…言わなければ…
それが…例え、嘘だとしても…。
紫織は眼を上げる。
必死に口元に笑みを浮かべる。
…笑わなきゃ…笑って、さよならを言わなきゃ…。
「…私はもう、貴方のことを何とも思ってないわ…。
もう…忘れたの…何もかも…」
「…紫織…」
藤木の美しい榛色の瞳が哀しげに細められた。
「…私には優しい主人と可愛い娘がいて…とても幸せなの…。
今更、家庭に波風を立てる気はないの。
…だから…帰らせていただきます…」
頭を下げ、男に背を向ける。
歩き始めたその刹那、声が掛かった。
「待って、紫織」
強張る背中に、穏やかな声が追いかける。
「…分かったよ。
君を困らせるようなことはしない。
…だから、ここにいてくれ。
…話がしたいんだ…」
ゆっくりと振り返る。
…昔と少しも変わらない…どこか気弱な…所在なげな眼差しの藤木がいた。
「…話をしよう、紫織…。
お願いだ…」