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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…お弁当…。
そういえば、毎日頑張って作ったわ…」
しみじみと呟く。
毎日カヨさんと一緒にまだ薄暗いキッチンに立って、賑やかに色々なお弁当を作ったっけ…。
…カヨは結局、あのまま曄子のところで家政婦を続けている。

『曄子様とは妙に馬が合うんですよねえ』
と、楽しげに仕事を続けてくれているので、ほっとする。
たまに上京しては紗耶を本当の孫のように可愛がってくれた…。
『紗耶さんはなんてお可愛らしいんでしょうねえ。
まるで天使ですねえ…』
…そして…
『旦那様もお優しくてご立派なお方ですし…紫織さんは本当にお幸せですよ…』
そう何度も言ってくれる…。
哀しい恋の結末をすべて知っているカヨにそう言われると、今の選択が間違ってはいないと思えたのだ…。


「…うん…。
毎日毎日、紫織のお弁当が楽しみだったよ…。
…あの頃は…本当に楽しかったな…」
「…私も…。
毎日毎日、ドキドキしていたわ…。
今日は先生に会えるかな?どこかですれ違わないかな?て…。
化学の授業は…なんだか恥ずかしくて黒板の方を見られなかった…。
お陰で成績が少し下がったわ」
睨むふりをする。
「そうだっけ?
君はいつも学年トップだったじゃないか」
「…授業どころじゃなかったのよ…。
…あの頃は…先生が話しかけたり笑いかけたりする相手すべてに嫉妬して…その度に落ち込んだわ…」
「…紫織…」
じっと見つめる藤木の榛色の瞳は、あの頃のままなのだ…。

さり気なく逸らして、冗談めかして笑う。

「私、可愛かったわね。すごい純情…!」

「…今も少しも変わらないさ…。
変わらなすぎて…苦しいくらいだ…」
抑え気味に囁く藤木も、かつて紫織が愛した男のままだ…。

…紫音は密かにため息を吐く。
「…先生がハンバーガーとピザを鬼のように食べてメタボで冴えないオジサンになっていたら良かったのに…」

…そうしたら私は…

「え?何だって?」
藤木が不思議そうに眼を瞬かせた。

「…なんでもないわ…」
口元に笑みを浮かべ、快活に箸を動かし始める。

「この賀茂茄子、本当においしいわ。
先生も早く食べてみて」

…あの頃のままの美しく…少し寂しげな男の姿が、紫織を切なく迷わせるのだ…。
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