この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…へえ…。お嬢さんはもう婚約しているの?」
藤木が驚いたように眼を丸くした。
それはそうだろう。
自分の息子と同い年の十八の娘がもう婚約しているなど、今の時代では驚くべきことだ。

「ええ、そうなの。
…主人の家のご本家に当たるお家の御子息と婚約をして…今はそちらに花嫁修業のために住み込んでいるわ。
高遠家…て、ご存知かしら?」
藤木が興味深げに頷く。
「もちろん知っているよ。
かつて日本の政を裏で操って陰陽師も輩出したあの高遠家だろう?
少しでも歴史を齧ったら覚えているよ。
その家に?」

賀茂茄子と合鴨の重ね焼きを箸で器用に取り分けながら、紫織は答える。
「ええ。…色々あったのだけれど…娘の意思を尊重して…」
…あの物静かな娘の密かな…そして大切な初恋だったのだ…。

「…君は名門のお家に嫁いだんだな…。
…ご主人は何をしているひと?」
「銀行に勤めているわ。
高遠一族の分家筋に当たるひとなの。
その縁で娘はご本家の御子息にお嫁様に選ばれたの。
…高遠本家には信じられないような因習や厳しいしきたりがあって…。
嫁いだ頃は本当に戸惑ったわ。
…けれど、主人はとても優しいひとで…慣れない私をいつも庇ってくれたの」
「…そう…。
良い人と結ばれたんだね…」
…少し寂しそうに微笑む。

「…ええ…。
そうね…。良い人と結婚できたと思うわ…」
敢えて、はっきりと答えた。
…良い人…。
本当にそうだ。
優しくて穏やかで寛大で…。
紫織をずっと大切にしてくれている…。

「お嬢さんは?君に似ている?」
「貌立ちはあまり似ていないわ。
主人に似たのかも…。とても可愛い娘よ。
優しくて素直で一途で…。
親バカね、私…。
…娘が事実上お嫁に行ってしまったようなものでしょう?
今までいつもそばにいたから…。
なんだかとても寂しくて…」
…そう。
紗耶は私にとって、唯一無二の掛け替えのない娘なのだ…。

「…そう…」
藤木が箸を置き、穏やかに語りかけた。
「…君はやっぱり良いお母さんになったんだね…」
「…え?」
紫織は大きな瞳を見開いた。
「昔、言っただろう?
君はきっと良いお母さんになるって…。
…僕の予言は当たったね」
榛色の美しい瞳が、慈しみ深く微笑んでいた。

「…先生…」
温かな感情がじわりと湧き上がる。
…男の陽だまりのような優しさは、今も少しも変わっていないのだ。
/789ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ