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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…僕は妻に結婚を申し込まれた時に言ったんだ。
僕にはずっと愛している人がいます。
そのひとをきっと一生忘れられないでしょうと…。
そんな男と、貴女は結婚したいのですか?…と。
妻はそれでも構わないと僕に言ったんだ。
そのひとをずっと愛していていいから、自分と結婚してほしいと。
お母様の手術のために自分を利用してくれと…。
僕は…拒めなかった。
…それで…僕は彼女と結婚した…。
僕こそ、彼女の愛を利用したんだ。
なんて浅ましい…打算に満ちた嫌らしい…そして卑怯な男なんだ。
…軽蔑してくれ…」
藤木の端正な貌が苦渋に歪む。
紫織は必死で首を振った。

「そんな…!軽蔑なんてしないわ。
…仕方がないわ。
先生の結婚でお母様は助かった…。
それで良かったんだわ…。
…愛だ恋だなんて…大切な命の前には大したことではないんだわ…」

…嘘だ。
本当は、自分の愛を選んで欲しかった…。
母親を捨てても、自分を選び取って欲しかった…。
…けれど、それを今言って何になるのだ…。
もしも…なんて、無意味な仮定だ。
それを言ったところで、人生は変わらないのだ。

「…先生はその方と結婚して良かったのよ…。
良かったじゃない…。
アメリカで希望の研究を続けられて、先生に夢中な奥様に愛されて、先生そっくりな素敵な息子さんを授かって…。
先生はお幸せだわ…」
紫織は幽かに微笑んだ。

「…そう…。
僕の結婚は決して不幸ではなかった。
妻を尊敬していた。
息子は可愛い。今もだ。大切な我が子だ」

…けれど…
と、藤木はため息混じりに告げた。

「…君がいない人生は、寂しくて虚しかった…」

…その言葉は、紫織の胸に楔のように鋭く深く突き刺さった。
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