この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
一人で帰れると言う紫織を、藤木は半ば強引にタクシーに乗せた。
「夜遅く、こんなに美しいひとを一人で帰すなんて危険なことはできないよ。
ご自宅の近くまで送らせてくれ」
紫織は苦笑した。
「まだ9時すぎよ。
それにここは日本よ。
世界でも、女性が夜に一人歩きして唯一安全な国よ。
ニューヨークとは違うわ」
「いや、駄目だ」
藤木はきっぱりと言い放った。
「タクシーで送るよ。
…ご主人に誤解されるのがまずいのなら、ご自宅の近くで下ろすから…。
お家はどこ?」
「世田谷の奥沢よ」
…と、答えて紫織は思わず小さく笑った。
「何?どうしたの?」
「ううん。思い出したの…。
…昔、よく先生に家の近くまで車で送ってもらったな…て。
家の前だと母に見つかるから、少し離れたところで車を停めてもらって…。
懐かしいわ…」
しみじみ呟く紫織の横貌を、藤木がじっと見つめる。
「…そうだったね…。
君が家に入るまでずっと見送っていた。
君の姿が見えなくなると、ほっとしつつも寂しくて、もう会いたくて…そんな気持ちだった」
「…私たち、半年くらいしか付き合っていなかったのよね…。
今考えるととても短いわ」
…でも…。
藤木を見上げる。
「…私にとっては永遠のような半年だったわ…」
…何にも代え難い大切な大切な日々だった…。
「…紫織…」
藤木の美しい榛色の瞳が、至近距離で紫織を見つめる。
その手が紫織の手を求めるように動き…けれど藤木は思い留まるように、ふっと寂し気に表情を変え、静かに手を引いた。
「…永遠に大切な、宝物のような時間だったわ…」
そうして紫織は、自分に言い聞かせるように
「…だから、想い出だけは綺麗なままで取っておきたいの…」
そう呟き、眩くネオンが輝く車窓の夜景に眼を転じたのだった。
「夜遅く、こんなに美しいひとを一人で帰すなんて危険なことはできないよ。
ご自宅の近くまで送らせてくれ」
紫織は苦笑した。
「まだ9時すぎよ。
それにここは日本よ。
世界でも、女性が夜に一人歩きして唯一安全な国よ。
ニューヨークとは違うわ」
「いや、駄目だ」
藤木はきっぱりと言い放った。
「タクシーで送るよ。
…ご主人に誤解されるのがまずいのなら、ご自宅の近くで下ろすから…。
お家はどこ?」
「世田谷の奥沢よ」
…と、答えて紫織は思わず小さく笑った。
「何?どうしたの?」
「ううん。思い出したの…。
…昔、よく先生に家の近くまで車で送ってもらったな…て。
家の前だと母に見つかるから、少し離れたところで車を停めてもらって…。
懐かしいわ…」
しみじみ呟く紫織の横貌を、藤木がじっと見つめる。
「…そうだったね…。
君が家に入るまでずっと見送っていた。
君の姿が見えなくなると、ほっとしつつも寂しくて、もう会いたくて…そんな気持ちだった」
「…私たち、半年くらいしか付き合っていなかったのよね…。
今考えるととても短いわ」
…でも…。
藤木を見上げる。
「…私にとっては永遠のような半年だったわ…」
…何にも代え難い大切な大切な日々だった…。
「…紫織…」
藤木の美しい榛色の瞳が、至近距離で紫織を見つめる。
その手が紫織の手を求めるように動き…けれど藤木は思い留まるように、ふっと寂し気に表情を変え、静かに手を引いた。
「…永遠に大切な、宝物のような時間だったわ…」
そうして紫織は、自分に言い聞かせるように
「…だから、想い出だけは綺麗なままで取っておきたいの…」
そう呟き、眩くネオンが輝く車窓の夜景に眼を転じたのだった。