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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
タクシーは自宅の青銅の門扉が見える少し離れた路上に停まった。
ガレの柔らかな門灯が辺りを照らしている。
…二階の政彦の書斎にも灯りが灯っていた。
まだ、仕事をしているのだろう。

タクシーの窓越しに家を見遣り、藤木が呟いた。
「…立派なお家だ…。
離れまであるんだね」
広い庭の奥…白い瀟酒な建物が丈のあるピエール・ドゥ・ロンサールの薔薇の影に見える。
「…私のラボよ。主人が建ててくれたの。
アロマテラピーの仕事を、結婚後も続けられるように…と。
あそこで色々なアロマを調合をしたり、お教室も開いているの」
「…そう。
本当に良いご主人だね…」
藤木はやや沈んだ声で呟いた。
「…ええ、そう。
とても優しくて寛大で良い夫よ」
「…君をとても愛しているんだろうな」
「…ええ。そうね。
私は夫にずっと愛されているわ。
出会ったときからずっと…」

…自惚れではなくそう思う。
政彦は一途にひたすらに紫織だけを愛し続けてくれている。
何よりも大切にされている。
…それなのに、自分は…。
ちくりと胸が痛む。
…自分は隣にいるこの男に未だに恋しい気持ちを抱き続けている。
ずっと…何年も…何十年も…。
何もなくても…。
これが夫への裏切りでなくて一体何なのだろうか…。

苦しい心のまま、紫織は男に別れを告げる。

「…もう、行くわ…。
今日はお会いできて嬉しかったわ…。
…ありがとう…」
紫織が見上げた瞳を、藤木の榛色の瞳が強く捉える。

「…紫織。
君の連絡先を…メールアドレスだけでも教えてくれないか…。
…時々、他愛のないやりとりをするだけでいいんだ。
何も望まない。君とただ、繋がっていたいんだ」

「…先生…」
心が掴まれるように、切なく痛む。

…私だって…
そうできたら、どんなに嬉しいだろう…。

…けれど…

紫織は口唇を噛み締め、首を振る。

「…だめよ…。
そんなこと、しない方がいいわ…」
…繋がっていたら、それだけ未練が募る…。

暫くして…
「…そう…。
…分かったよ…。
ごめんね。無理を言った…」
淋しげな男の声が響く。

溢れ出しそうなすべての想いを振り切るように、紫織は車のドアを自ら開いた。
「…さようなら、先生…。
お元気で…」
貌も見ることなく囁き、車外に出た。

…これで…いいんだわ…。

自分に言い聞かせるように呟くと、家の方へと歩き出した。




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