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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…紫織…愛している…」
甘く長い口づけを、何度も交わす。
…男のフレグランス…深い深い森に咲く百合と、ひんやりとした神秘的なモッシーの薫りが紫織を狂おしく酔わせる。

…今までの長い空白の時を埋めるように…何度も…何度も…
紫織は、自分から男の唇を求め、舌を絡ませた。

「…先生…」
「…紫織…愛している…君だけだ…」
「…ん…っ…は…ああ…んっ…」

…男の口づけは、昔と少しも変わってはいなかった…。
桜色の柔らかな紫織の口唇を優しく押しつつんだかと思うと、大胆に押し開き、白い歯列を割る。
そうして、その熱い舌で口内を濃密に弄るように蹂躙するのだ…。

白皙のどこかひんやりした端正な美貌と裏腹のその優雅な野蛮さを秘めた口づけに、紫織はいつも酔わされ…乱れさせられてきた…。

「…せん…せ…い…。
…あいして…る…」
少女のような幼気な言葉を、濃密な口づけの合間に必死に告げる。

「…ずっと…会いたかった…。
…ずっと…恋しかった…。
…ずっと…愛していたわ…」

…口に出してしまうと、恋しい気持ちは箍が外れたようにすべての理性を押し流してしまう。

…だって…ずっと、好きだったのだから…。
誰よりも愛していた…。
憎みたくても憎めなかった…。
忘れたくても忘れられなかった…。
…ただ、ひたすら…恋しかった…。

啜り哭く紫織の口唇を、藤木は優しく愛撫するように啄む。
「…ごめん…紫織…。
許してくれ…」
口唇を離し、息が止まるほど強く抱き竦める。
泣きじゃくる紫織の髪を優しく撫でる。
「君のことを思わない日は一日もなかった…。
ずっと…後悔していたよ…。
君の手を、離してしまったことを…」
「…先生…」

藤木の大きな美しい手が、紫織の頰を愛おしげに包み込む。
榛色の瞳が嬉しげに細められる。
「…この薫り…」
…そして…
「…ミスオブ沙棗…。まだ使ってくれているの…?」
恥じらうように眼を伏せる。
「…捨てようと思ったけれど…捨てられなかったわ…。
…だって、あれは先生が私にくれた大切な宝物だもの…」
「紫織…!」
男の腕が紫織を抱きしめる。

「…もう離さない…!」
藤木が、吐息混じりに熱く告げた。

再び口唇が重ねられ、荒々しく貪られる。
男に縋りつきながら、紫織は我を忘れて口づけに応える。

…この激しい恋情を止めるものは、もはや何もなかったのだ…。


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