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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
翌朝、紫織はいつものようにダイニングルームで政彦と向かい合い、朝食を摂った。
「紫織、もう頭痛は大丈夫?よく眠れたかな?」
いつものように、政彦はとても優しい。
「ありがとう、貴方。
もうすっかり良くなったわ」
アンティーブとベーコンとマッシュルームのサラダにアンチョビドレッシングを掛けながら、笑顔で答える。
「それは良かった。
でも、まだ無理しないようにね」
政彦がほっとしたように眼鏡の奥の眼を細めた。
「ありがとう…。
…貴方、黒すぐりのジャムはいかが?
紗耶ちゃんが先日、届けてくれたのよ。
お屋敷のお庭で採れたのを使って紗耶ちゃんが作ったのですって」
政彦がいかにも子煩悩らしく嬉し気に眼を輝かせる。
「それはすごいな。
紗耶のお手製ならぜひ頂こう。
…紗耶もすっかり高遠家に馴染んで…色々なことが出来るようになってきたんだな…」
しみじみと黒すぐりのジャムを見つめる。
「…ええ…。本当にそうね…」
愛おしい娘のことを思い浮かべると、紫織も自然と笑顔になる。
「…紗耶ちゃんが高遠のお家で幸せに暮らせているのは、何よりだわ…」
ふと考える。
千晴はあれから紗耶と真正面から向かい合えたのだろうか…。
…きっと、大丈夫だわ…。
千晴さんは、紗耶ちゃんを深く愛しているもの…。
あの世にも稀なるほどに美しい青年は、無意識にずっと長い間、紗耶を愛し続けていたのだから…。
そして、寂しく考える。
…私に、あの二人の愛について、思いを馳せる資格などないかもしれないけれど…。
…だって、私は…。
昨夜の藤木の熱い口づけが、フラッシュバックのように甦る。
紫織はそっと口唇を噛み締めた。
…現実は容赦なく紫織に押し寄せる。
あと十五分ほどで銀行のハイヤーが迎えにくる。
紫織はちらりと柱時計を見上げ、さりげなく口を開いた。
「…あのね、政彦さん…」
「うん?」
「…私、今夜も少し遅くなっていいかしら?」
薄いトーストにジャムを塗る政彦の手が止まった。
「紫織、もう頭痛は大丈夫?よく眠れたかな?」
いつものように、政彦はとても優しい。
「ありがとう、貴方。
もうすっかり良くなったわ」
アンティーブとベーコンとマッシュルームのサラダにアンチョビドレッシングを掛けながら、笑顔で答える。
「それは良かった。
でも、まだ無理しないようにね」
政彦がほっとしたように眼鏡の奥の眼を細めた。
「ありがとう…。
…貴方、黒すぐりのジャムはいかが?
紗耶ちゃんが先日、届けてくれたのよ。
お屋敷のお庭で採れたのを使って紗耶ちゃんが作ったのですって」
政彦がいかにも子煩悩らしく嬉し気に眼を輝かせる。
「それはすごいな。
紗耶のお手製ならぜひ頂こう。
…紗耶もすっかり高遠家に馴染んで…色々なことが出来るようになってきたんだな…」
しみじみと黒すぐりのジャムを見つめる。
「…ええ…。本当にそうね…」
愛おしい娘のことを思い浮かべると、紫織も自然と笑顔になる。
「…紗耶ちゃんが高遠のお家で幸せに暮らせているのは、何よりだわ…」
ふと考える。
千晴はあれから紗耶と真正面から向かい合えたのだろうか…。
…きっと、大丈夫だわ…。
千晴さんは、紗耶ちゃんを深く愛しているもの…。
あの世にも稀なるほどに美しい青年は、無意識にずっと長い間、紗耶を愛し続けていたのだから…。
そして、寂しく考える。
…私に、あの二人の愛について、思いを馳せる資格などないかもしれないけれど…。
…だって、私は…。
昨夜の藤木の熱い口づけが、フラッシュバックのように甦る。
紫織はそっと口唇を噛み締めた。
…現実は容赦なく紫織に押し寄せる。
あと十五分ほどで銀行のハイヤーが迎えにくる。
紫織はちらりと柱時計を見上げ、さりげなく口を開いた。
「…あのね、政彦さん…」
「うん?」
「…私、今夜も少し遅くなっていいかしら?」
薄いトーストにジャムを塗る政彦の手が止まった。