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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…アロマの仕事?
また、カルチャーセンターの講習会かなにか?」
「ううん。
…あのね、美加から連絡があって、久しぶりに会わない?て言われたの。
…それで、美加のお店に行くことになったのだけれど…」
…心拍数が上がる胸を抑えながら、話をするので精一杯だ。
「ああ、そうなんだ」
政彦はにっこりと笑った。
美加とは紫織の結婚式以来、家族ぐるみの付き合いだ。
陽気で闊達な美加を政彦はとても好感を持っているようだ。
今や事実上女将を務める美加の明石町の料亭に、紗耶を連れて家族で食事に行ったことも幾度かある。
「いいじゃないか。ゆっくり行っておいで。
美加さんにもよろしく伝えてくれ。
でも、ワインは飲みすぎないようにね…。
また頭が痛くなるといけないからね」
朗らかに微笑む政彦の貌が真っ直ぐに見られず、紫織はさり気なく席を立つ。
「ありがとう…。
…コーヒーをいれてくるわ」
「うん。ありがとう」
キッチンに立ちながら、政彦に尋ねる。
「お夕食は何がいい?
お好きなものを作るわ」
政彦が優しく笑う気配がする。
「なんでもいいよ。
君が作るものはなんでも美味しいからね。
…いつもありがとう…」
「…そんな…」
言葉に詰まる。
…こんなにも優しいひとを、私は欺こうとしている…。
ううん。
もうすでに、欺いている…。
紫織は息が出来なくなるほどに苦しくなる胸を抱きながら、懸命に明るく答えた。
「じゃあ、今日はご馳走を作るわ。
楽しみにしていらして」
「ありがとう。
…それならランチは軽めにしておくかな…」
振り返る先の政彦は屈託なく微笑み、紫織を見つめている。
…このまま、この胸に秘めた禁断の恋に生きるのならば、この優しいひとをどれほど悲しませ、苦しませることになるのだろうかと、清潔な夏の朝陽が降り注ぐキッチンに立ちながら、紫織はぼんやりと考えたのだった。
また、カルチャーセンターの講習会かなにか?」
「ううん。
…あのね、美加から連絡があって、久しぶりに会わない?て言われたの。
…それで、美加のお店に行くことになったのだけれど…」
…心拍数が上がる胸を抑えながら、話をするので精一杯だ。
「ああ、そうなんだ」
政彦はにっこりと笑った。
美加とは紫織の結婚式以来、家族ぐるみの付き合いだ。
陽気で闊達な美加を政彦はとても好感を持っているようだ。
今や事実上女将を務める美加の明石町の料亭に、紗耶を連れて家族で食事に行ったことも幾度かある。
「いいじゃないか。ゆっくり行っておいで。
美加さんにもよろしく伝えてくれ。
でも、ワインは飲みすぎないようにね…。
また頭が痛くなるといけないからね」
朗らかに微笑む政彦の貌が真っ直ぐに見られず、紫織はさり気なく席を立つ。
「ありがとう…。
…コーヒーをいれてくるわ」
「うん。ありがとう」
キッチンに立ちながら、政彦に尋ねる。
「お夕食は何がいい?
お好きなものを作るわ」
政彦が優しく笑う気配がする。
「なんでもいいよ。
君が作るものはなんでも美味しいからね。
…いつもありがとう…」
「…そんな…」
言葉に詰まる。
…こんなにも優しいひとを、私は欺こうとしている…。
ううん。
もうすでに、欺いている…。
紫織は息が出来なくなるほどに苦しくなる胸を抱きながら、懸命に明るく答えた。
「じゃあ、今日はご馳走を作るわ。
楽しみにしていらして」
「ありがとう。
…それならランチは軽めにしておくかな…」
振り返る先の政彦は屈託なく微笑み、紫織を見つめている。
…このまま、この胸に秘めた禁断の恋に生きるのならば、この優しいひとをどれほど悲しませ、苦しませることになるのだろうかと、清潔な夏の朝陽が降り注ぐキッチンに立ちながら、紫織はぼんやりと考えたのだった。