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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「ごめんね、忙しいのに…。お店ももうすぐ開店時間でしょう?」
詫びる紫織に明るく手を振りながらてきぱきと家のキッチンに立ちお茶の支度をする美加は、大らかで陽気で昔のままだ。
「いいのいいの。
お昼はママがまだハバ利かせて張り切ってるしさ。
旦那もパパと頑張ってるし、あたしはチビたちを保育園に送ったらいつも結構のんびりしてるんだ」

美加は金沢の料亭で女将修行をしたのだが、その店の次男坊と劇的な恋に落ち、そのまま彼を婿養子にして明石町の料亭を継いだのだ。

『逆ナンとか散々言われてるけどさ、本当はダンナが先にあたしに惚れたんだからね!マジだよ!マジ!』
とブツブツ言う美加はやや照れた貌が本当に愛らしかった。
北国の男らしく無口で真面目な美加の夫は、大層な二枚目だ。

『まさかあんな男前をあの美加が婿さんに連れてくるなんてねえ。
しかも腕はいいし真面目だしねえ。
宝くじに当たったみたいな奇跡だわよ。
金沢まで修行に出した甲斐があったわあ』
美加の母親は感に耐えたように繰り返したものだ。
『…娘のこと、なんだと思ってんのよねえ、全くもう!』
と、よく膨れていたものだ…。

「美歩ちゃんと美菜ちゃんは元気?
来年は小学校よね?」
…美加は今や五歳の双子の母親だ。
結婚十年目にして漸く授かった子どもを夫婦はもちろん美加の両親たちもいたく可愛がっている。

「元気元気。二人ともとにかく食いしん坊だからさあ、保育園イチ大きいのよ。態度もね。
保育園の女ジャイアンズて呼ばれてるらしいよ。
おしゃまでお喋りで、一日中ぎゃんぎゃんうるさいったらないの。
紫織のとこの紗耶ちゃんとは大違い!」
と言いつつも、可愛くて仕方ないのが滲み出てる表情だ。

「…そう。元気なのが一番よ。
育児は大変だけれど今振り返ると、あの頃が本当に懐かしいわ…」
…小さな頃、紗耶は食が細かったりすぐに熱を出したりと心配なことが多かった。
けれど、育児ノイローゼになることもなく育てられたのは…。

「政彦さん、優しいもんね。企業戦士でちょ〜忙しいのにめっちゃ紗耶ちゃんのこと可愛がっててさ。
紗耶ちゃんが具合が悪い時は徹夜で看病してくれる…て紫織言ってたもんね」
「…そう…だったわね…」
紫織ははっと息を呑み、黙り込んだ。

「どうした?紫織…。
一体、何があったの?」
美加が紫織の隣のソファに座り、声をかけた。

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