この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
夕風に紗耶が植えていった白いガブリエルが窓枠に揺れていた。
…夏の名残の小さく咲いた白い薔薇が微かにその薫りを、紫織の部屋まで漂わせた。
…すべての支度は終わった…。
紫織は大きな姿見に自分の姿を映す。
…白いロング丈のレースのワンピース…。
少し考えて髪はそのまま下ろしているので、かつての高校時代の紫織の髪型のようだ。
…けれど…
紫織は鏡を見つめ、眉を寄せた。
…私はもう四十歳なのだ…。
若々しいだの美しいだの他人からは称賛されることが多いが、確実に歳を取っているのだ。
それは決して嫌なことではないけれど、かつて十七歳の紫織でその記憶を止めている藤木の眼に、どう映るのか…。
…焦りに似た感情が紫織を丹念に美しく装わせた…。
薄い桜色の口紅を塗り…紅い球体の香水に手を伸ばす。
白い首筋と手首の内側に少しだけ着ける。
…ミスオブ沙棗…。
初めての恋の記憶の香水だ。
藤木との逢引きに、これ以外の香水はない。
…淫らな甘い蜜のようなフロリエンタルな魅惑の薫りが、紫織に纏わりつく。
…かつて、この香水のような薫りをその身体から漂わせ、王を魅了した伝説の香妃は、果たして幸せだったのだろうか…。
王と二人、添い遂げられたのだろうか…。
それを知るすべはもはやないのだ…。
過去は風のようにあっという間に過ぎ去り、ここにあるのは今だけだ…。
…その今を、生きるために…。
紫織は忘れ得ぬ切ない恋の薫り…ミスオブ沙棗とともに、住み慣れた部屋を出た。
…夏の名残の小さく咲いた白い薔薇が微かにその薫りを、紫織の部屋まで漂わせた。
…すべての支度は終わった…。
紫織は大きな姿見に自分の姿を映す。
…白いロング丈のレースのワンピース…。
少し考えて髪はそのまま下ろしているので、かつての高校時代の紫織の髪型のようだ。
…けれど…
紫織は鏡を見つめ、眉を寄せた。
…私はもう四十歳なのだ…。
若々しいだの美しいだの他人からは称賛されることが多いが、確実に歳を取っているのだ。
それは決して嫌なことではないけれど、かつて十七歳の紫織でその記憶を止めている藤木の眼に、どう映るのか…。
…焦りに似た感情が紫織を丹念に美しく装わせた…。
薄い桜色の口紅を塗り…紅い球体の香水に手を伸ばす。
白い首筋と手首の内側に少しだけ着ける。
…ミスオブ沙棗…。
初めての恋の記憶の香水だ。
藤木との逢引きに、これ以外の香水はない。
…淫らな甘い蜜のようなフロリエンタルな魅惑の薫りが、紫織に纏わりつく。
…かつて、この香水のような薫りをその身体から漂わせ、王を魅了した伝説の香妃は、果たして幸せだったのだろうか…。
王と二人、添い遂げられたのだろうか…。
それを知るすべはもはやないのだ…。
過去は風のようにあっという間に過ぎ去り、ここにあるのは今だけだ…。
…その今を、生きるために…。
紫織は忘れ得ぬ切ない恋の薫り…ミスオブ沙棗とともに、住み慣れた部屋を出た。