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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…紫織…。
…来てくれたんだね…。
会いたかった…!」
ホテルの部屋のドアが開くなり、藤木が紫織を引き寄せた。

部屋の中に引き込まれ、紫織はすぐさま藤木に口唇を奪われた。

「…ん…っ…あ…ああ… ん…っ…」
情熱的に濃密に、舌が絡められる。
あっという間に甘い吐息が溢れ出す。

「…ミスオブ沙棗だ…。
…紫織の薫りだ…」
温かい吐息混じりに囁く藤木からは、深い深い森に咲く百合と、ひんやりとしたモッシーの薫りが漂う…。

「…先生…」
あの頃の記憶が一気に甦る…。
恋しさと熱情が泉のように溢れ出す。

「…紫織…!」
強く抱き竦められ、そのまま濃厚な口づけを交わす。

「…紫織…。
…ああ…君は少しも変わらない…。
昔のままだ…。
…愛しているよ…」
甘く優しい囁き声が、紫織の鼓膜を震わせる。

…と、その時…。

遠くから微かに赤ん坊の泣き声が聞こえてきた…。

紫織はびくりと身体を強張らせた。

「…待って…」
男の肩を押しやり、口唇を震わせる。
「…赤ちゃんの泣き声だわ…」

藤木が怪訝そうに眉を寄せる。

「赤ちゃん?」
…耳を澄ませ…
「…いいや。何も聞こえないよ。
気のせいだ。…紫織…」
首を振り、ふっと微笑まれる。

…そうしてそのまま、再び引き寄せられ口唇を重ねられた。

「…紫織…。
…また、あの頃のように愛し合おう…」
低音の美しい声が鼓膜をしっとりと染める。
…催眠術に掛けられたかのように、紫織は長い睫毛を震わせ、眼を閉じる…。

…不意に…遠くから、その唄声は聴こえてきたのだ…。

『…きらきらひかる、お空の星よ…』 

紫織ははっと大きな瞳を見開いた。

…あの声は…

「…政彦さん…!」

紫織は雷に打たれたかのように立ち竦む。

「…そうだわ…。
…どうして…どうして…今まで忘れていたのかしら…。
…私…私…」

『…まばたきしては、みんなを見てる…』

…決して上手くはない…けれど、ひたすらに優しく温かい子守唄を…。


「紫織?どうしたの?」
怪訝そうな藤木の貌を、紫織は瞬きもせず見つめる。
…眼の前の男…
紫織が初めて愛した男だ。
…恋しい恋しい…初恋の男だ。

…けれど…
今想うのは、別の男だ…。


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