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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…どうして…私はあんなに大切なことを今まで忘れていたのかしら…」
もう一度、自戒を込めて苦しげに呟く。
「紫織?どうしたの?」
藤木が美しい榛色の瞳を見開き、怪訝そうに紫織を覗き込む。
…何よりも愛した美しい、愛おしい瞳だ。
その瞳を、紫織は瞬きもせずにじっと見つめ返す。
「…私…私ね…。
ずっと先生が好きだったわ。
…二十年間、ずっとずっと忘れられなかった…。
…初恋だったのよ…」
苦しいくらい愛していた…。
だから、忘れられなかった。
忘れたくなかったのだ。
「僕もだよ。僕もずっと君を愛していたよ」
優しい声と表情が告げる。
それが嘘ではないことは、分かっている。
…けれど…。
「…そうね…。
でも…先生が愛していたのは、十七歳の私なのよね」
藤木の端正な眉が顰められる。
「紫織?何を言っているの?」
「…先生が今も愛しているのは十七歳の私なのよ。
先生の中で私の時間は止まっているんだわ。
…でも、私は違う。
…私はその先もずっと生きてきたのよ。
悩んだり苦しんだり…それから笑ったり…幸せだったり…」
…そう。幸せだった…。
紗耶が生まれた日のことを、今でも昨日のことのように覚えている。
生まれたばかりの我が子を胸に抱いたとき、思ったのだ。
…自分の血を分けた我が子…。
この子こそが、真実の愛の姿なのだと。
初めて、実感として感じられた愛…。
それは、紗耶に対する愛だったのだ。
…だから、紫織は紗耶を抱いて泣いた。
この小さなかけがえのない命を授かったことに心から感謝しながら…。
「…そう。
私は先生と別れてから、私自身を生きてきたわ。
想い出の私ではなく…生身の私自身を…」
…そして、静かに…毅然と伝える。
「…今の私が大切にしなくてならないのは、主人なの…。
一緒に生きてきた主人なの。
…想い出の中の先生ではないの」
「紫織…!」
傷ついたように、藤木の端正な貌が歪んだ。
胸が、締め付けられるように痛む。
…けれど、言わなくてはならないのだ。
初恋への決別の言葉を…。
「…ごめんなさい。私も先生と一緒だわ。
二十年間、想い出の中の先生をずっと追い求めて、愛して、縋って…。
…ううん。違うわ。
…私は、初恋を愛しすぎていたんだわ…」
もう一度、自戒を込めて苦しげに呟く。
「紫織?どうしたの?」
藤木が美しい榛色の瞳を見開き、怪訝そうに紫織を覗き込む。
…何よりも愛した美しい、愛おしい瞳だ。
その瞳を、紫織は瞬きもせずにじっと見つめ返す。
「…私…私ね…。
ずっと先生が好きだったわ。
…二十年間、ずっとずっと忘れられなかった…。
…初恋だったのよ…」
苦しいくらい愛していた…。
だから、忘れられなかった。
忘れたくなかったのだ。
「僕もだよ。僕もずっと君を愛していたよ」
優しい声と表情が告げる。
それが嘘ではないことは、分かっている。
…けれど…。
「…そうね…。
でも…先生が愛していたのは、十七歳の私なのよね」
藤木の端正な眉が顰められる。
「紫織?何を言っているの?」
「…先生が今も愛しているのは十七歳の私なのよ。
先生の中で私の時間は止まっているんだわ。
…でも、私は違う。
…私はその先もずっと生きてきたのよ。
悩んだり苦しんだり…それから笑ったり…幸せだったり…」
…そう。幸せだった…。
紗耶が生まれた日のことを、今でも昨日のことのように覚えている。
生まれたばかりの我が子を胸に抱いたとき、思ったのだ。
…自分の血を分けた我が子…。
この子こそが、真実の愛の姿なのだと。
初めて、実感として感じられた愛…。
それは、紗耶に対する愛だったのだ。
…だから、紫織は紗耶を抱いて泣いた。
この小さなかけがえのない命を授かったことに心から感謝しながら…。
「…そう。
私は先生と別れてから、私自身を生きてきたわ。
想い出の私ではなく…生身の私自身を…」
…そして、静かに…毅然と伝える。
「…今の私が大切にしなくてならないのは、主人なの…。
一緒に生きてきた主人なの。
…想い出の中の先生ではないの」
「紫織…!」
傷ついたように、藤木の端正な貌が歪んだ。
胸が、締め付けられるように痛む。
…けれど、言わなくてはならないのだ。
初恋への決別の言葉を…。
「…ごめんなさい。私も先生と一緒だわ。
二十年間、想い出の中の先生をずっと追い求めて、愛して、縋って…。
…ううん。違うわ。
…私は、初恋を愛しすぎていたんだわ…」