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異邦人の庭 〜secret garden〜
第3章 コンテ・ド・シャンボールの想い人
「…サプライズ…パーティー…?
…それは…ないと思うけれど…」
…そんなにちゃらちゃらしたおうちではないと紗耶は密かに思う。
「まあまあおよろしいではありませんか。
たまにはお綺麗なお着物をお召しになって気晴らしなさいませ。
お勉強ばかりでは息が詰まってしまいますよ。
今夜はクリスマスイブですもの。
メリークリスマス!紗耶お嬢様!」
結び終わったふくら雀の帯をぽんと軽く叩き、テルは明るく笑った。
そうして、姿見に紗耶の全身を写して見せて、眼を輝かせた。

…鴇色の地に、ルビー色の華やかな大輪の薔薇が描かれた振袖、緞子の金糸に白薔薇が刺繍された格式高い帯…。
振袖、帯ともに薔薇尽くしで…ともすれば派手になりがちだが、おとなしやかな紗耶が着ると全く嫌味なく品良く馴染んで見える…と、テルは感心するのだ。

「まあまあ!なんてお美しいんでしょう!
…紗耶お嬢様はお着物がよくお似合いになりますこと…!
まるでお人形さんのようですよ!」

テルの賑やかな賛辞に、紗耶は俯く。
「…お世辞はいいわ。
…私、自分がちっとも綺麗じゃないって分かっているから…。
お母様に少しも似ていない…醜いアヒルの子…」
紗耶の言葉に、テルは眼を丸くした。
「何を仰るんですか!
紗耶お嬢様は本当にお美しいですよ。
…たしかに奥様にはあまり似てはいらっしゃらないですけれど、でも紗耶お嬢様には紗耶お嬢様のお美しさがございますよ。
…さあ、ご覧なさいませ」
テルは温かな手で紗耶の肩を抱き、鏡を見せる。

「…綺麗で艶やかなお髪、ミルクのように白いお肌、睫毛が長くて、お目々は涼しげに澄んでいて、お鼻の形もお品が良くて、可愛らしいお口をされて…。
何よりお嬢様は楚々として清らかで…愛らしい菫の花のような可憐さです。
…これから大人におなりになるにつれて、益々お綺麗になることでしょうね。
…紗耶お嬢様に夢中になる殿方はきっとたくさん現れますよ、
テルは見る目があるのですから、間違いありません」

紗耶が生まれた時からずっと家にいて、紗耶にとっては血の繋がらない祖母のようなテルの言葉はいつも優しく温かい。
コンプレックスの塊のような紗耶を陽気に励ましてくれるのだ。

…テルさんは優しいな…。

「…ありがとう、テルさん…」
恥じらいながら微笑んだ時、静かなノックの音が聞こえた。



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