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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…政彦さん…貴方…」
喘ぐように呟く紫織に、政彦は静かに頷いた。

「…うん。ずっと知っていたよ…。
君に忘れられないひとがいることを…。
そのひとをずっと愛していることも…」

…そして…

いつもの穏やかな口調で政彦は続けた。

「今夜、君がその彼に会いに行ったことも…」
紫織の口唇が震え、白い両手が握りしめられた。
暫くの沈黙ののち、漸く掠れた声で紫織は答えた。

「…そう…。
…貴方は何もかも…ご存知だったのね…」
妻が自分と結婚生活を営みつつも、他の男にずっと心を残していることを…。
この男はすべて承知して、それを咎めなかったのか…。

「うん…。
君が十七歳の時、高校教師と恋仲になり、さまざまな事情で別れ京都の学校に転校したことや、その彼がアメリカに渡り別の女性と結婚し…今回離婚して帰国したことも…。
…ごめんね。すべて調べて知っていたよ。
…君に関することは、調べずにはいられなくてね…」

済まなそうに詫びる政彦に、紫織は尋ねた。

「…どうして?」
「うん?」
「どうして私を責めなかったの?
…私はずっと心の中で貴方を裏切り続けてきたのよ。
そんな妻を…どうして貴方は…」
言葉を詰まらせる紫織に、政彦は厳かに告げた。

「…愛しているからだよ」
…苦しげに、切なげにため息をついた。

「…どうしようもないほどに、君を愛しているからだよ」



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