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異邦人の庭 〜secret garden〜
第13章 ミスオブ沙棗の涙 〜初恋のゆくえ〜
「…今夜の君は、見惚れてしまうほどに綺麗だよ…」
グラスを翳しながら、政彦が眩し気に囁いた。
…意外に、こういうことを少しも気障にならずに自然に伝えられるひとなのだと、紫織は新鮮に感じた。
…そして、まるで初めて会ったひとのようにどきどきした。

「…ありがとう…」
…透かし模様の入った真珠色のシフォンのワンピース、髪は緩くアップし、後れ毛を垂らしてみた。
イヤリングは去年政彦が誕生日祝いに贈ってくれた御木本のピンクパールだ。
香水はディオールのドルチェ・ヴィータ…。
サンダルウッドとシダー、そして可憐なバニラのフロリエンタルな甘く魅惑的な薫り…。
伝説の名調香師・セルジュ・ルタンスの傑作だ。
もう、今ではこんなにも重厚で繊細なロマンチックな物語を感じさせるような香水は作られることはないだろう…。
どことなくミステリアスで、それでいて女性らしい蠱惑的な薫りは、政彦のお気に入りらしい。
これを付けているといつも褒めてくれるので付けてみたのだ…。

「…貴方こそ、とても素敵よ」
お世辞ではなくそう思った。
政彦が照れたようにこめかみ辺りを掻いた。
「久しぶりに紫織と食事に行くから、少し頑張っておしゃれしてみたんだ」

…銀座の老舗店で誂えた薄いブルーの麻のシャツに辛子色のチノパンツ、濃紺のサマージャケットを羽織った政彦は、地味ではあるが如何にも品の良い洗練された紳士に見えた。
腕時計はパテックフィリップのカラトラバ…。
革靴は焦茶色のフェラガモだ。
政彦は腕時計と靴には凝るタイプなのだ。


「そうよね。
…デートですものね」
貌を少し近づけて微笑みながら囁くと、政彦は瞬きをしながらそっと紫織の白い手を握りしめた。
「…紫織…」
政彦の手のひらは、夏の陽の名残のように熱を持っていた。


…そこに微かな靴音が響き、落ち着いた男性の声が近づいてきた。

「…失礼いたします。
二宮様。
本日はようこそお越しくださいました。
この店のオーナーの堂島と申します」

紫織はその聞き覚えのある名前と声に、思わず振り返った。

「…堂島さん…⁈」

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