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異邦人の庭 〜secret garden〜
第1章 アンジェラの初戀
…でも、いいんだ。
紗耶は満足そうに綺麗な濃いローズ色のアンジェラの蔓薔薇のアーチを見上げた。
初夏の濃い陽射しを、アンジェラの花のアーチが優しく庇ってくれる。
…ここなら…薔薇園なら、華子ちゃんたちは来ないもの。
華子たちは薔薇園に飛び交う蜜蜂が大嫌いなのだ。
以前のお茶会では蜂がいると大騒ぎして、高飛車に庭師を呼びつけていた。
…へんなの…。
蜜蜂なんてちっとも怖くないのに。
ぶんぶんと飛び回るだけで大人しく、人を刺したりしないし、花の蜜を集めているさまはとても可愛らしくて、紗耶はそれを眺めるのが大好きだった。
「ねえ、アリス。
ここは紗耶の秘密の花園なのよ。
三月うさぎさんやチュシャ猫さん、ハートの女王が出てきそうじゃない?」
紗耶はくすくす笑いながらアリスに話しかけた。
一人遊びは大好きだ。
紗耶は未だにテディベアのアリスと楽しげに一人遊びをする。
初等科の友だちも少なく、家族以外のひととは話したがらない紗耶を父親の政彦は大層心配したが
「大丈夫ですよ。
紗耶ちゃんはほかの子どもより奥手で恥ずかしがり屋さんなだけですわ。
今時、お淑やかな女の子なんて可愛らしくていいじゃありませんか」
と紫織は鷹揚に微笑った。
…それを聞いた親戚や親しい友人たちは、口を揃えて褒めそやすのだった。
『紫織さんは本当に素晴らしいお母様だわ。
紗耶ちゃんを認めて、焦ったり怒ったりなさらないで、大切になさって…。
…なかなか出来ないことよね』
…と。
…本当にそうだ。
お母様は優しい…。
お母様はだめな私を、一度も怒ったり苛立ったりなさったことがない。
人の輪に入れない私を、がっかりされたりもしない。
…『いいのよ、紗耶ちゃん。
そのうち、自然にお話できるようになるわ』
…そして、こう言うのだ。
…『もし、なれなくてもいいじゃない。
こうして、お母様と一緒に仲良く暮らしてゆきましょう』
美しい百合の花のように気高い美貌に相応しい、慈愛に満ちた微笑みを浮かべて…。
…本当に…お母様は、お優しい…。
紗耶は、ゆっくりとアリスの頭を撫でる。
…不意に、濃い陽射しを浴びた青々とした芝生に、いびつな黒い影が唐突に差した。
紗耶は満足そうに綺麗な濃いローズ色のアンジェラの蔓薔薇のアーチを見上げた。
初夏の濃い陽射しを、アンジェラの花のアーチが優しく庇ってくれる。
…ここなら…薔薇園なら、華子ちゃんたちは来ないもの。
華子たちは薔薇園に飛び交う蜜蜂が大嫌いなのだ。
以前のお茶会では蜂がいると大騒ぎして、高飛車に庭師を呼びつけていた。
…へんなの…。
蜜蜂なんてちっとも怖くないのに。
ぶんぶんと飛び回るだけで大人しく、人を刺したりしないし、花の蜜を集めているさまはとても可愛らしくて、紗耶はそれを眺めるのが大好きだった。
「ねえ、アリス。
ここは紗耶の秘密の花園なのよ。
三月うさぎさんやチュシャ猫さん、ハートの女王が出てきそうじゃない?」
紗耶はくすくす笑いながらアリスに話しかけた。
一人遊びは大好きだ。
紗耶は未だにテディベアのアリスと楽しげに一人遊びをする。
初等科の友だちも少なく、家族以外のひととは話したがらない紗耶を父親の政彦は大層心配したが
「大丈夫ですよ。
紗耶ちゃんはほかの子どもより奥手で恥ずかしがり屋さんなだけですわ。
今時、お淑やかな女の子なんて可愛らしくていいじゃありませんか」
と紫織は鷹揚に微笑った。
…それを聞いた親戚や親しい友人たちは、口を揃えて褒めそやすのだった。
『紫織さんは本当に素晴らしいお母様だわ。
紗耶ちゃんを認めて、焦ったり怒ったりなさらないで、大切になさって…。
…なかなか出来ないことよね』
…と。
…本当にそうだ。
お母様は優しい…。
お母様はだめな私を、一度も怒ったり苛立ったりなさったことがない。
人の輪に入れない私を、がっかりされたりもしない。
…『いいのよ、紗耶ちゃん。
そのうち、自然にお話できるようになるわ』
…そして、こう言うのだ。
…『もし、なれなくてもいいじゃない。
こうして、お母様と一緒に仲良く暮らしてゆきましょう』
美しい百合の花のように気高い美貌に相応しい、慈愛に満ちた微笑みを浮かべて…。
…本当に…お母様は、お優しい…。
紗耶は、ゆっくりとアリスの頭を撫でる。
…不意に、濃い陽射しを浴びた青々とした芝生に、いびつな黒い影が唐突に差した。