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異邦人の庭 〜secret garden〜
第1章 アンジェラの初戀
「あらあら、紗耶ちゃんはこんなところにいたのね?」
「私たち、あなたをさがしてあげていたのよ。
またひとりぼっちで泣いていたらかわいそうだなあと思って」
作ったような猫撫で声とくすくす笑いが頭上から降ってきた。
…華やかなシフォンの揃いのワンピース…。
髪は綺麗にカールされていて、とても大人びて見える。
華子と麗香だ。
二人は高遠家の本家筋の姉妹で、小学四年生と五年生だ。
紗耶と同じ星南女学院に通っているが、もちろん学院内では紗耶のことなど眼もくれない。
目立たない無口で愚図な親戚がいるなど、級友に知られたら恥だからだろう。
…だから、親戚が集まるこんな場所では大手を振って揶揄えるので、生き生きしているのだ。
紗耶はとっさにアリスを抱きしめ、立ち竦む。
…そんな紗耶を、二人は格好の獲物を見つけたハイエナのようにその瞳を輝かせた。
「何を持っているの?
見せてよ、紗耶ちゃん」
「テディベアじゃない!
…へえ…。ぬいぐるみとおままごとしていたの?
赤ちゃんみたい」
赤ちゃん赤ちゃん!
二人は一斉に笑い出した。
紗耶は胸が苦しくなるのを我慢して、アリスを抱きしめながら後退りした。
その腕を華子が掴んだ。
「待ってよ。見せて、そのぬいぐるみ」
…絶対に嫌だった。
アリスはぬいぐるみじゃない。
アリスは友だちだ。
華子に渡したら、何をされるか分からない。
紗耶は勇気を振り絞って首を振った。
華子の勝気そうな眉が跳ね上がる。
「貸せないっていうの?生意気に」
「生意気生意気!紗耶ちゃんの癖に生意気!」
姉の尻馬に麗香が乗る。
「いっつも学校で誰とも喋らなくて…。
いるんだかいないんだかわかんないのにさ」
再び二人が甲高い声で笑う。
「お姉ちゃま、取っちゃえば?」
麗香が嗾す。
華子が唇を歪めながら、紗耶に近づく。
必死で抱きしめていた腕から、アリスが呆気なく奪われる。
「…返して…アリスを…」
蚊が鳴くような声で懇願する。
「アリスぅ?この熊が?ばっかみたい!」
「汚い熊じゃない。何これ。
私のシェリーメイなんてぴかぴかなんだから」
鼻先で嗤われ、紗耶は泣き出しそうになる。
…お父様に買ってもらった大切なテディベアのアリス…。
アリスは汚い熊じゃない。
友だちなのだ。
泣きじゃくりながら、けれど勇気を振り絞って訴える。
「…返して…お願い…」
「私たち、あなたをさがしてあげていたのよ。
またひとりぼっちで泣いていたらかわいそうだなあと思って」
作ったような猫撫で声とくすくす笑いが頭上から降ってきた。
…華やかなシフォンの揃いのワンピース…。
髪は綺麗にカールされていて、とても大人びて見える。
華子と麗香だ。
二人は高遠家の本家筋の姉妹で、小学四年生と五年生だ。
紗耶と同じ星南女学院に通っているが、もちろん学院内では紗耶のことなど眼もくれない。
目立たない無口で愚図な親戚がいるなど、級友に知られたら恥だからだろう。
…だから、親戚が集まるこんな場所では大手を振って揶揄えるので、生き生きしているのだ。
紗耶はとっさにアリスを抱きしめ、立ち竦む。
…そんな紗耶を、二人は格好の獲物を見つけたハイエナのようにその瞳を輝かせた。
「何を持っているの?
見せてよ、紗耶ちゃん」
「テディベアじゃない!
…へえ…。ぬいぐるみとおままごとしていたの?
赤ちゃんみたい」
赤ちゃん赤ちゃん!
二人は一斉に笑い出した。
紗耶は胸が苦しくなるのを我慢して、アリスを抱きしめながら後退りした。
その腕を華子が掴んだ。
「待ってよ。見せて、そのぬいぐるみ」
…絶対に嫌だった。
アリスはぬいぐるみじゃない。
アリスは友だちだ。
華子に渡したら、何をされるか分からない。
紗耶は勇気を振り絞って首を振った。
華子の勝気そうな眉が跳ね上がる。
「貸せないっていうの?生意気に」
「生意気生意気!紗耶ちゃんの癖に生意気!」
姉の尻馬に麗香が乗る。
「いっつも学校で誰とも喋らなくて…。
いるんだかいないんだかわかんないのにさ」
再び二人が甲高い声で笑う。
「お姉ちゃま、取っちゃえば?」
麗香が嗾す。
華子が唇を歪めながら、紗耶に近づく。
必死で抱きしめていた腕から、アリスが呆気なく奪われる。
「…返して…アリスを…」
蚊が鳴くような声で懇願する。
「アリスぅ?この熊が?ばっかみたい!」
「汚い熊じゃない。何これ。
私のシェリーメイなんてぴかぴかなんだから」
鼻先で嗤われ、紗耶は泣き出しそうになる。
…お父様に買ってもらった大切なテディベアのアリス…。
アリスは汚い熊じゃない。
友だちなのだ。
泣きじゃくりながら、けれど勇気を振り絞って訴える。
「…返して…お願い…」