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異邦人の庭 〜secret garden〜
第14章 ミスオブ沙棗の涙 〜コーネリアの娘の呟き〜
「…政彦兄さん、紫織さん。
ようこそいらっしゃいました。
…お茶にご招待していたんだ。
紗耶ちゃんを驚かせようと思ってね…。
…さあ、お二人ともお掛けください」
気を取り直したように千晴が紳士らしくすぐさま立ち上がり、二人に席を勧める。
勧められた藤の長椅子に紫織が座ったのを確認し…しかし直ぐに政彦は、側に控える家政婦の八重に伝えた。
「八重さん。すまないがクッションを持ってきてくれないか。
少し椅子が硬いようだ。
…それからブランケットも…。
昼間とは言え、外は風が冷たい。
紫織さんが冷えるといけないのでね」
「畏まりました。
すぐにご用意いたします」
黒い裾の長い制服に身を包んだ八重が、無駄のない動きでその場を後にした。
慌てて紫織が押し留める。
「私は大丈夫よ、政彦さん」
「いや、だめだよ。
今が一番大切な時なのだから…」
只ならぬ二人の会話に紗耶は不意に不安になり、尋ねた。
「…あの…お父様。
お母様、どこかお身体のお具合が良くないの?」
…すると、それに対する二人の反応は思いがけないものであった。
紫織は透き通るような白いうなじを桜色に染め俯き、政彦は咳払いを繰り返した。
益々不安になり、紗耶は政彦をせっついた。
「お父様?ねえ、何があったの?教えて?」
政彦は少し上擦ったような声で紫織に尋ねた。
「…二人にはもう言ってもいいだろう?」
「…ええ…そうね…」
紫織は乙女のように俯いたままだ。
「…実はね…」
…嬉しくて堪らないように、政彦が口を開く。
「…来年の初夏には紗耶はお姉様になるのだよ」
「…へ?」
紗耶と千晴の口から、異口同音に素っ頓狂な声が漏れた。
紫織がゆるゆると貌を上げた。
ガブリエルの薔薇のような優美な美貌はそのままだが、どこかしっとりとした柔らかな母性のベールが掛かったかのような表情をしていた。
紫織ははにかむように…けれど誇らしげに微笑んだ。
「…このお庭の薔薇が満開になる頃に、紗耶ちゃんの弟か妹が生まれるのよ…」
…紗耶と千晴は手を握り合ったまま叫んだ。
「ええ〜ッ!?」
ようこそいらっしゃいました。
…お茶にご招待していたんだ。
紗耶ちゃんを驚かせようと思ってね…。
…さあ、お二人ともお掛けください」
気を取り直したように千晴が紳士らしくすぐさま立ち上がり、二人に席を勧める。
勧められた藤の長椅子に紫織が座ったのを確認し…しかし直ぐに政彦は、側に控える家政婦の八重に伝えた。
「八重さん。すまないがクッションを持ってきてくれないか。
少し椅子が硬いようだ。
…それからブランケットも…。
昼間とは言え、外は風が冷たい。
紫織さんが冷えるといけないのでね」
「畏まりました。
すぐにご用意いたします」
黒い裾の長い制服に身を包んだ八重が、無駄のない動きでその場を後にした。
慌てて紫織が押し留める。
「私は大丈夫よ、政彦さん」
「いや、だめだよ。
今が一番大切な時なのだから…」
只ならぬ二人の会話に紗耶は不意に不安になり、尋ねた。
「…あの…お父様。
お母様、どこかお身体のお具合が良くないの?」
…すると、それに対する二人の反応は思いがけないものであった。
紫織は透き通るような白いうなじを桜色に染め俯き、政彦は咳払いを繰り返した。
益々不安になり、紗耶は政彦をせっついた。
「お父様?ねえ、何があったの?教えて?」
政彦は少し上擦ったような声で紫織に尋ねた。
「…二人にはもう言ってもいいだろう?」
「…ええ…そうね…」
紫織は乙女のように俯いたままだ。
「…実はね…」
…嬉しくて堪らないように、政彦が口を開く。
「…来年の初夏には紗耶はお姉様になるのだよ」
「…へ?」
紗耶と千晴の口から、異口同音に素っ頓狂な声が漏れた。
紫織がゆるゆると貌を上げた。
ガブリエルの薔薇のような優美な美貌はそのままだが、どこかしっとりとした柔らかな母性のベールが掛かったかのような表情をしていた。
紫織ははにかむように…けれど誇らしげに微笑んだ。
「…このお庭の薔薇が満開になる頃に、紗耶ちゃんの弟か妹が生まれるのよ…」
…紗耶と千晴は手を握り合ったまま叫んだ。
「ええ〜ッ!?」