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異邦人の庭 〜secret garden〜
第14章 ミスオブ沙棗の涙 〜コーネリアの娘の呟き〜
「大お祖母様!」
四人は一斉に起立する。
高遠徳子がその場に現れた時には、一堂の者たちは必ず立ち上がらなくてはならない。
そうして、徳子が着席し彼女が許可するまで座ることは許されない。
それは高遠家の不文律であった。
誰も逆らうものは居ない。

…しかし、政彦は果敢にも紫織に言った。
「紫織は座っていなさい」

徳子が形の良い眉を跳ね上げた。
…まるで猛禽類のような鋭い眼差しが政彦を睥睨した。
しかし、政彦は怯まなかった。
「大お祖母様。
大変僭越ですが、妻は妊娠中です。
長時間立っているのは身体に触ります。
着席をお許しいただけますでしょうか?」

千晴と紗耶は眼を見張った。
…今まで徳子にこんなことを申し出た者は一人としてはいない。
しかも政彦は普段誰よりも礼節を重んじる男だ。

「…私の話が長いとでも?」
ジロリと政彦を見遣り言い放つ。
「いいえ、決してそのような…」
弁解しようとする政彦に手を振り…しかし、意外にも不機嫌な様子はなく皆に命じたのだ。

「ご着席なさい。皆ですよ。
妊婦虐めをしたと後世にまで伝えられるのは御免だわ」

…そうして、にやりと不敵に笑い

「…マナーブックのお手本のような政彦さんがねえ…。
変われば変わるものだわ」

それからはいつものように…
「七重。
私には温かなジャージーミルクたっぷりのイングリッシュブレンドを。
…それから熱々のスコーンとクロテッドクリームとマヌカハニー、ハロッズのプレミアム・マーマレードもね。
胡瓜のサンドイッチと…ああ、そうだわ。オイルサーディンとパプリカ、紫キャベツのサンドイッチも良いわね。
もちろん皆の分も…。
…紫織さん、栄養は取らなくてはなりませんよ?
これは単なる年寄りのお節介です」
と、傍らに影のように付き添う侍女の七重に、さながら女王陛下のように尊大に申しつけ、紫織を恐縮させた。

「…さあ、ではゆっくり聞かせていただこうかしら?
我が一族に加わる新たなる一員が生まれるお話を…」

…それはそれは、優しくこの上なく嬉し気な温かな笑みであったのだ。


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