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異邦人の庭 〜secret garden〜
第14章 ミスオブ沙棗の涙 〜コーネリアの娘の呟き〜
「…今日はびっくりしたなあ…」
紗耶はふうっと息を吐いた。
…入浴を終え、ミルク色のネグリジェ姿で髪を乾かしながらバルコニーに出る。
秋の夜風はもうひんやりと冷たくて…けれど、入浴後の火照った肌には心地良い。
…秋咲きの薔薇の薫りがふんわりと夜風に乗って漂ってくる。
紗耶は我知らず微笑んだ。
四十になる母が妊娠したのには驚かされたが、今は嬉しい気持ちで一杯だ。
…お母様はお父様を愛していらしたのだわ…。
母が父を見る眼はこれまでと異なり、しっかりとした愛情と…初々しい乙女のような恋情にも感じられたのだ。
両親に一体何があったのかは分からない。
けれど、二人が改めて濃い絆で結ばれたのなら、それで良いのではないかと思うのだ。
…その結果の紫織の妊娠なら、とてもロマンチックなことではないか…と。
…するとふと、昼間の徳子の言葉が胸を過った。
午後のお茶会ののち、離れまで徳子を送った紗耶の耳元に、その呪文のような言葉は囁かれたのだ。
『…本当に人生とは思いがけないことが不意に起こるものなのですよ…。
恋しいひとはこのひとだけと思い続けてきたのが、ふと…まるで落とし穴に堕ちたかのように、別の恋に囚われたり…ね』
徳子の高貴な猛禽類のような…けれどどこか優しみと切なさのある眼差しが紗耶に向けられたのだ。
…まさか…。私が?
あり得ない…。
紗耶はすぐさま
『…でも、私はお兄ちゃましか考えられません。
お兄ちゃまが運命のひとですもの』
そう生真面目に答えた。
徳子はふっと謎めいた微笑を浮かべ…
『…本当に無垢で穢れのない可愛い娘…。
…けれど、貴女が許されない恋に泣く姿もそれはそれで美しいのではないかしらね…』
…美しい詩を唄うように呟くと、さながら魔女が暮らす中世の館のような鬱蒼と蔦が生い茂る屋敷に侍女と共に姿を消したのだ…。
紗耶はふうっと息を吐いた。
…入浴を終え、ミルク色のネグリジェ姿で髪を乾かしながらバルコニーに出る。
秋の夜風はもうひんやりと冷たくて…けれど、入浴後の火照った肌には心地良い。
…秋咲きの薔薇の薫りがふんわりと夜風に乗って漂ってくる。
紗耶は我知らず微笑んだ。
四十になる母が妊娠したのには驚かされたが、今は嬉しい気持ちで一杯だ。
…お母様はお父様を愛していらしたのだわ…。
母が父を見る眼はこれまでと異なり、しっかりとした愛情と…初々しい乙女のような恋情にも感じられたのだ。
両親に一体何があったのかは分からない。
けれど、二人が改めて濃い絆で結ばれたのなら、それで良いのではないかと思うのだ。
…その結果の紫織の妊娠なら、とてもロマンチックなことではないか…と。
…するとふと、昼間の徳子の言葉が胸を過った。
午後のお茶会ののち、離れまで徳子を送った紗耶の耳元に、その呪文のような言葉は囁かれたのだ。
『…本当に人生とは思いがけないことが不意に起こるものなのですよ…。
恋しいひとはこのひとだけと思い続けてきたのが、ふと…まるで落とし穴に堕ちたかのように、別の恋に囚われたり…ね』
徳子の高貴な猛禽類のような…けれどどこか優しみと切なさのある眼差しが紗耶に向けられたのだ。
…まさか…。私が?
あり得ない…。
紗耶はすぐさま
『…でも、私はお兄ちゃましか考えられません。
お兄ちゃまが運命のひとですもの』
そう生真面目に答えた。
徳子はふっと謎めいた微笑を浮かべ…
『…本当に無垢で穢れのない可愛い娘…。
…けれど、貴女が許されない恋に泣く姿もそれはそれで美しいのではないかしらね…』
…美しい詩を唄うように呟くと、さながら魔女が暮らす中世の館のような鬱蒼と蔦が生い茂る屋敷に侍女と共に姿を消したのだ…。