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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
…そののち、紗耶は勧められるままに清瀧にお茶をご馳走になった。
趣味の良い黒織部に煎れられたダージリンは殊の外、美味しかった。
…こんな繊細なセンスや端正な様子も千晴を彷彿させるので、紗耶は安心するのだ。
「どう?大学生活には慣れたかな?」
穏やかな口調で尋ねられ、紗耶は頷く。
「はい。お陰様で…。
サークルにも入ってお友だちもできましたし、毎日楽しいです」
「それは良かったね。
どんなサークルなの?」
「音楽サークルなんですけど…。
…基本的にロックをクラシックの楽器で演奏するサークルなんです。
私はバイオリンを習っていたので勧誘していただいて…」
清瀧は朗らかに微笑んで感心した。
「それは面白いな。
紗耶さんのイメージとロックは意外だけれど…いや、案外ハマるかもね。
…でも、高遠は心配しているんじゃない?
彼は出来れば紗耶さんをあの広大な屋敷に閉じ込めて大切に仕舞っておきたいと思っている筈だからね」
「…はあ…」
…図らずもどきりとする。
それは正しく図星だったからだ。
千晴は紗耶が大学に馴染めば馴染むほど、少し寂しそうな貌をするのだ。
『…紗耶ちゃんはどんどん新しい世界を知って、僕から少しずつ離れていきそうだね…』
…と…。
そうして必ず紗耶を抱きしめて、こう掻き口説くのだ。
『…紗耶ちゃん…どこにもいかないで…。
ずっと僕の紗耶ちゃんでいて…』
その言葉を聞くと、紗耶は微かに哀しくなる。
…どうしてお兄ちゃまは紗耶を信用してくれないのだろう。
紗耶はこんなにもお兄ちゃまが好きなのに…お兄ちゃま以外のひとなど考えられないのに…と…。
「紗耶さんはとても美しいからね。
高遠の心配は分かる気がするけれど…」
決していやらしくはなく、爽やかに褒められて紗耶は白い頰を染める。
「…そんな…私なんか…ちっとも…」
「紗耶さんは控えめでお淑やかだけれど、なぜか人目を惹くんだよ。
…僕の講義を取ってくれているでしょう?
あんなにたくさんの学生がいるのに、紗耶さんは直ぐに眼に飛び込んでくる。
…君には不思議な冒し難い聖性と無垢な美しさがあるね。
それは無意識にひとを惹きつけずにはいられないものだ。
…だから高遠の心配はよく分かるんだよ」
「…はあ…」
…文学の先生ってなんだか表現が難解で大袈裟だ…と、密かに思う。
…その時、研究室の扉が軽やかにノックされた。
趣味の良い黒織部に煎れられたダージリンは殊の外、美味しかった。
…こんな繊細なセンスや端正な様子も千晴を彷彿させるので、紗耶は安心するのだ。
「どう?大学生活には慣れたかな?」
穏やかな口調で尋ねられ、紗耶は頷く。
「はい。お陰様で…。
サークルにも入ってお友だちもできましたし、毎日楽しいです」
「それは良かったね。
どんなサークルなの?」
「音楽サークルなんですけど…。
…基本的にロックをクラシックの楽器で演奏するサークルなんです。
私はバイオリンを習っていたので勧誘していただいて…」
清瀧は朗らかに微笑んで感心した。
「それは面白いな。
紗耶さんのイメージとロックは意外だけれど…いや、案外ハマるかもね。
…でも、高遠は心配しているんじゃない?
彼は出来れば紗耶さんをあの広大な屋敷に閉じ込めて大切に仕舞っておきたいと思っている筈だからね」
「…はあ…」
…図らずもどきりとする。
それは正しく図星だったからだ。
千晴は紗耶が大学に馴染めば馴染むほど、少し寂しそうな貌をするのだ。
『…紗耶ちゃんはどんどん新しい世界を知って、僕から少しずつ離れていきそうだね…』
…と…。
そうして必ず紗耶を抱きしめて、こう掻き口説くのだ。
『…紗耶ちゃん…どこにもいかないで…。
ずっと僕の紗耶ちゃんでいて…』
その言葉を聞くと、紗耶は微かに哀しくなる。
…どうしてお兄ちゃまは紗耶を信用してくれないのだろう。
紗耶はこんなにもお兄ちゃまが好きなのに…お兄ちゃま以外のひとなど考えられないのに…と…。
「紗耶さんはとても美しいからね。
高遠の心配は分かる気がするけれど…」
決していやらしくはなく、爽やかに褒められて紗耶は白い頰を染める。
「…そんな…私なんか…ちっとも…」
「紗耶さんは控えめでお淑やかだけれど、なぜか人目を惹くんだよ。
…僕の講義を取ってくれているでしょう?
あんなにたくさんの学生がいるのに、紗耶さんは直ぐに眼に飛び込んでくる。
…君には不思議な冒し難い聖性と無垢な美しさがあるね。
それは無意識にひとを惹きつけずにはいられないものだ。
…だから高遠の心配はよく分かるんだよ」
「…はあ…」
…文学の先生ってなんだか表現が難解で大袈裟だ…と、密かに思う。
…その時、研究室の扉が軽やかにノックされた。