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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「…本当に美味いね、このホルモン」
運ばれてきたホルモン焼きを一口食べるなり、藤木はにっこりと笑った。
「臓物料理でここまで癖がなく、しかもホルモンの美味しさが引き出されているのは珍しい。
イタリアの美味いトリッパ料理みたいだ」

紗耶は我がことのように嬉しくなり、箸を握りしめたまま思わず力強く頷いた。
「ですよね⁈
私、レバーとか苦手だったんですけど、ここのホルモンですっかり好きになっちゃいました!
…こないだ、お母様…母がびっくりしていました。
紗耶ちゃん、レバー食べられるようになったの?…て」

藤木は箸を止め、紗耶を一瞬見つめると優しく微笑んだ。
「…そう…。
紗耶さんはお母様と仲良しなんだね…」
「はい。
…私、小さな頃から引っ込み思案で泣き虫で…身体も弱かったので母にべったりだったんです。
人見知りも酷くて母が側にいないと何もできない子で…。
母はさぞ私に手を焼いたと思います。
…でも、母は叱ったり一度も嫌な貌を見せたりすることはありませんでした。
母はその頃もうアロマテラピーの仕事を初めていたから、とても多忙でした。
…親戚付き合いも大変だったと思いますし…親戚の子どもたちは皆、優秀で可愛くて…母は肩身が狭かったんじゃないかと思います。
けれど母は、そんな素振りも微塵も見せずにいつも私に寄り添って励まして…そして受け入れてくれました。
『紗耶ちゃんはそのままでいいのよ。焦ることないわ』…て。
本当に、母に感謝しています」
…あ…私の話ばかり…。すみません」
初めて会ったばかりの大学の教授に長々とする話ではないと、紗耶は恥ずかしくなり詫びた。

けれど藤木はじっと紗耶の話に耳を傾けて、やがて…
…いや、と優しく首を振り…
「…お母様が大好きなんだね」
慈愛に満ちた口調で言った。

紗耶は直ぐに頷いた。
「はい。大好きです。
…私、美しくてなんでもできる母に少し劣等感を抱いたり…嫉妬したこともあったんですけれど、今はただひたすらに母が好きです。
幸せそうな母が…愛おしいです」

紗耶の真摯な言葉を最後まで聞き入り、藤木は何故だか感慨深げにこう漏らしたのだ。

「…そう…。
…それは良かった…本当に…」
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