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異邦人の庭 〜secret garden〜
第3章 コンテ・ド・シャンボールの想い人
大客間に足を踏み入れた紗耶は、思わず息を呑んだ。
…いつもとはその場の雰囲気ががらりと違っていたのだ。
まず、一段高い上座には高遠家の紋章が描かれた古く重厚なタペストリーを背に、徳子と千晴が座っていた。
徳子は黒いシルクタフタの襟の詰まったドレスを身に纏い、遠目にも厳かに輝くエメラルドの首飾りを身に付けていた。
結い上げた銀髪はひと筋の乱れもなく、彫りの深い目鼻立ち…どこか猛禽類を思わせる鋭い眼差しは八十をとうに過ぎた年齢には見えないほど冴え冴えとしていた。
…そして、千晴は…
極上の漆黒色のモーニングコート姿であった。
服装の決まりは遵守する身嗜みの良い千晴ではあったが、今までは昼間の会はブラックスーツを着ていることが多かった。
正装のモーニングコートに身を包む千晴はいつもとは違う改まった…どこか決意に満ち溢れたような表情が伺えた。
そしてやはり、千晴は美しかった。
すらりとしたスタイルの良い長駆に、モーニングコートは良く映え、やや日本人離れした高貴で端正な貌立ちと相まって、お伽話の王子…というより王子の花婿姿のようにさえ見えた。
千晴の背後には大きな九谷焼きの花器に飾られたコンテ・ド・シャンボールの美しい薄桃色の薔薇が群生のように咲き乱れ、そのダマスク香の妙なる薫りを漂わせ、彼のどこか世俗離れした美貌を幻想的に引き立たせていたのだ。
…紗耶が入って来た気配に千晴はゆっくりと視線を向け、少し驚いたように目を見張り…それから微かに笑った。
それは、いつもの千晴の優しい微笑で、紗耶はほっとした。
…いつもとはその場の雰囲気ががらりと違っていたのだ。
まず、一段高い上座には高遠家の紋章が描かれた古く重厚なタペストリーを背に、徳子と千晴が座っていた。
徳子は黒いシルクタフタの襟の詰まったドレスを身に纏い、遠目にも厳かに輝くエメラルドの首飾りを身に付けていた。
結い上げた銀髪はひと筋の乱れもなく、彫りの深い目鼻立ち…どこか猛禽類を思わせる鋭い眼差しは八十をとうに過ぎた年齢には見えないほど冴え冴えとしていた。
…そして、千晴は…
極上の漆黒色のモーニングコート姿であった。
服装の決まりは遵守する身嗜みの良い千晴ではあったが、今までは昼間の会はブラックスーツを着ていることが多かった。
正装のモーニングコートに身を包む千晴はいつもとは違う改まった…どこか決意に満ち溢れたような表情が伺えた。
そしてやはり、千晴は美しかった。
すらりとしたスタイルの良い長駆に、モーニングコートは良く映え、やや日本人離れした高貴で端正な貌立ちと相まって、お伽話の王子…というより王子の花婿姿のようにさえ見えた。
千晴の背後には大きな九谷焼きの花器に飾られたコンテ・ド・シャンボールの美しい薄桃色の薔薇が群生のように咲き乱れ、そのダマスク香の妙なる薫りを漂わせ、彼のどこか世俗離れした美貌を幻想的に引き立たせていたのだ。
…紗耶が入って来た気配に千晴はゆっくりと視線を向け、少し驚いたように目を見張り…それから微かに笑った。
それは、いつもの千晴の優しい微笑で、紗耶はほっとした。