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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「…そ、そんな…私なんか…全然…」
見つめられた恥ずかしさから動揺し、紗耶は思わず後退りしてしまう。
…が…
「…あっ…!」
…か、階段だった!
離れた脚が空を掴んだことに、紗耶は慌てふためく。
…落ちる…!
紗耶が悲鳴を上げる前に
「危ない…!」
…藤木のしなやかな長い腕が素早く紗耶を引き寄せ、抱き留めた。
「…あ…っ…!」
細身だが引き締まった胸元に抱き寄せられ、紗耶は小さく声を上げる。
…落下しないで済んだ安堵と…
…上質なシャツから漂うのは…
…深い深い森に咲く百合と…ひんやりした苔…そして…微かなカーネーションの薫り…
男の馨しい薫りに、一瞬うっとりと眼を閉じた。
…しかし、そんな自分を恥じるように、慌てて瞳を見張る。
「大丈夫?」
榛色の美しい瞳が間近に迫る。
「は、はい…!
す、すみません…!
私…びっくりしてしまって…」
しどろもどろに詫びる。
藤木は紗耶を安全な踊り場まで導き、すぐに手を離した。
「いや、僕こそ失礼したね。
…落ちなくて良かった…」
その声には、幽かな困惑の色が帯びていた。
「…ありがとう…ございます…」
肩を竦めながら頭を下げる紗耶に、男は安心させるように優しく微笑んだ。
「謝らないで。
結構、急な階段だよね。
紗耶さんが怪我しなくて良かったよ…。
僕は先に行っている。
…紗耶さんは手摺りに掴まって、ゆっくりおいで…」
…優しい父親のような気遣いを示したのち、藤木は美しい背中を見せながら階上に上がっていった…。
「…はい…」
…あえかな男の残り香と…一瞬強く触れた腕の熱…逞しい胸…
…千晴とは違う、男の身体…。
まだ収まらぬ、不可思議な胸の高鳴り…。
…どうしたのかしら…私…。
…なんだか…変な気持ち…。
それに…どきどきする…。
それらに、名前を付けることは出来なかった。
初めての、感情だったからだ。
紗耶はただぼんやりと、灯窓から光が差し込む踊り場に立ちすくむのだった…。
見つめられた恥ずかしさから動揺し、紗耶は思わず後退りしてしまう。
…が…
「…あっ…!」
…か、階段だった!
離れた脚が空を掴んだことに、紗耶は慌てふためく。
…落ちる…!
紗耶が悲鳴を上げる前に
「危ない…!」
…藤木のしなやかな長い腕が素早く紗耶を引き寄せ、抱き留めた。
「…あ…っ…!」
細身だが引き締まった胸元に抱き寄せられ、紗耶は小さく声を上げる。
…落下しないで済んだ安堵と…
…上質なシャツから漂うのは…
…深い深い森に咲く百合と…ひんやりした苔…そして…微かなカーネーションの薫り…
男の馨しい薫りに、一瞬うっとりと眼を閉じた。
…しかし、そんな自分を恥じるように、慌てて瞳を見張る。
「大丈夫?」
榛色の美しい瞳が間近に迫る。
「は、はい…!
す、すみません…!
私…びっくりしてしまって…」
しどろもどろに詫びる。
藤木は紗耶を安全な踊り場まで導き、すぐに手を離した。
「いや、僕こそ失礼したね。
…落ちなくて良かった…」
その声には、幽かな困惑の色が帯びていた。
「…ありがとう…ございます…」
肩を竦めながら頭を下げる紗耶に、男は安心させるように優しく微笑んだ。
「謝らないで。
結構、急な階段だよね。
紗耶さんが怪我しなくて良かったよ…。
僕は先に行っている。
…紗耶さんは手摺りに掴まって、ゆっくりおいで…」
…優しい父親のような気遣いを示したのち、藤木は美しい背中を見せながら階上に上がっていった…。
「…はい…」
…あえかな男の残り香と…一瞬強く触れた腕の熱…逞しい胸…
…千晴とは違う、男の身体…。
まだ収まらぬ、不可思議な胸の高鳴り…。
…どうしたのかしら…私…。
…なんだか…変な気持ち…。
それに…どきどきする…。
それらに、名前を付けることは出来なかった。
初めての、感情だったからだ。
紗耶はただぼんやりと、灯窓から光が差し込む踊り場に立ちすくむのだった…。