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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「はい。どうぞ。
熱いから気をつけてね」
…手渡されたマグカップは初めて見るような不思議な陶器だった。
テラコッタ色の焼き物だが、あまり馴染みのない質感の陶器だったのだ。

「ありがとうございます」
受け取り、しげしげとマグカップを見つめる。

「…これ、珍しい焼き物ですね?
どちらのですか?」
陶磁器は門前の小僧で紗耶は人並み以上に詳しい。
洋陶磁器もだが、和陶磁器も家には沢山コレクションがあったし、高遠家にはそれこそ値段がつけられないような歴史ある貴重な品が所蔵されている。
それらを徳子とともに手入れしたり、彼女から由来などの講釈を聴くのも紗耶には楽しみであった。

藤木が一瞬、表情を止め…小さく微笑んだ。
「…あわ焼き…と言って房総半島で作られている焼き物だよ。
…母が房総半島の出身でね。
僕は小さな頃、南房総で育ったんだ。
南房総の土は元々焼き物に向かない土質でね。
土の耐火度が低いそうなんだ。
だから釜で焼くと歪んだり割れたりしやすい。
そこを研究に研究を重ねて作られた陶磁器なんだ。
まだまだ数は作れないから、市場には沢山出回っていない。
だから珍しいかもしれないね」

「そうなんですね…。
とても温かみのある素敵なカップですね。
…あら?ペアカップなんですか?」
ふと眼を遣ると、藤木が手に持つマグカップも全く同じものだ。

藤木は少し驚いたように動作を止め…しみじみとどこか哀感の篭った眼差しでマグカップを見つめた。

「…うん…。昔からの愛用品だ。
…アメリカに渡る時、処分しようとしたんだけれど…どうしてもできなかった…」

愛しみのこもった手つきでそっとカップを撫でる。
その手つきには、なんとも言えない情愛が滲み出ていた。
…なんとはなしに、紗耶の胸が微かに疼いた。

「…先生の想い出のお品ですか?」
思い切って尋ねてみた。
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