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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「お兄ちゃま…?」
藤木が不思議そうに聞き返した。
紗耶は慌てて弁解した。
「あ…すみません。
私、今もそのひとのことを、お兄ちゃま…て、呼んでいるのでつい…」
…今時そんな子どもっぽい呼び名をする大学生なんて、いないに決まっている。
恥ずかしいな…。
紗耶は小さく肩を落とした。
「構わないよ。お兄ちゃまで。
君がいつも呼んでいるように呼んで」
穏やかな口調と微笑みに、少しほっとした。
そして、改めて語り始める。
「…お兄ちゃまは、私の初恋なんです」
少しはにかむように告げた。
「初恋?」
「はい…。
お兄ちゃまは私より一回り年上の、高遠本家の当主様で…。
分家筋の私にとっては、雲の上のお方でした。
私の父がお兄ちゃまの家庭教師をしていたので、よくうちに遊びにいらしたりしていたのですけれど…私はいつも母のスカートの影に隠れて、一言も口を聞けないような…引っ込み思案で内気な子どもでした」
…今も、似たような感じですけれど…。
そう付け加えると、藤木が小さく微笑んだ。
それはとても好意的な温かな笑いだった。
そのことに力を得て、紗耶は続ける。
「…それで…私が六歳の時に、親戚の女の子に意地悪されているのをお兄ちゃまが助けてくれてたんです。
手を差し伸べてくれて…優しく笑いかけてくれて…。
…嬉しかった…」
…あの日の手の温もりは、今でもはっきりと覚えている…。
そして、千晴の輝くような美しい笑顔も…。
「…それで、君はお兄ちゃまに恋をしたんだね?」
」
紗耶は恥ずかしそうに小さく頷いた。
「…はい…。
そうです…」
「…そう…」
藤木の穏やかな優しげな声が、ふっと冷めたような温度と色彩を帯びた。
「…まるで清く正しく美しいお伽噺のような初恋だね」
藤木が不思議そうに聞き返した。
紗耶は慌てて弁解した。
「あ…すみません。
私、今もそのひとのことを、お兄ちゃま…て、呼んでいるのでつい…」
…今時そんな子どもっぽい呼び名をする大学生なんて、いないに決まっている。
恥ずかしいな…。
紗耶は小さく肩を落とした。
「構わないよ。お兄ちゃまで。
君がいつも呼んでいるように呼んで」
穏やかな口調と微笑みに、少しほっとした。
そして、改めて語り始める。
「…お兄ちゃまは、私の初恋なんです」
少しはにかむように告げた。
「初恋?」
「はい…。
お兄ちゃまは私より一回り年上の、高遠本家の当主様で…。
分家筋の私にとっては、雲の上のお方でした。
私の父がお兄ちゃまの家庭教師をしていたので、よくうちに遊びにいらしたりしていたのですけれど…私はいつも母のスカートの影に隠れて、一言も口を聞けないような…引っ込み思案で内気な子どもでした」
…今も、似たような感じですけれど…。
そう付け加えると、藤木が小さく微笑んだ。
それはとても好意的な温かな笑いだった。
そのことに力を得て、紗耶は続ける。
「…それで…私が六歳の時に、親戚の女の子に意地悪されているのをお兄ちゃまが助けてくれてたんです。
手を差し伸べてくれて…優しく笑いかけてくれて…。
…嬉しかった…」
…あの日の手の温もりは、今でもはっきりと覚えている…。
そして、千晴の輝くような美しい笑顔も…。
「…それで、君はお兄ちゃまに恋をしたんだね?」
」
紗耶は恥ずかしそうに小さく頷いた。
「…はい…。
そうです…」
「…そう…」
藤木の穏やかな優しげな声が、ふっと冷めたような温度と色彩を帯びた。
「…まるで清く正しく美しいお伽噺のような初恋だね」