この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「…え…?」
驚いて、紗耶は視線を上げた。
初めて感じる藤木の冷淡さであった。
…どういう意味かしら…。
紗耶はふと不安になる。

「ごめんね。
とても意地悪な言い方をしたね。
…そう、別に君の美しい初恋を否定するわけじゃないんだ。
ただ、まるで童話の世界の清潔で綺麗な恋物語みたいだったから…」

…紗耶さんにぴったりな…。
きっと君の婚約者も、そんな紗耶さんに恋したのだろうね…。
と、淡々と告げられた。

「…そんな…美しいお話じゃないわ…!」
咄嗟に紗耶は叫んでいた。

藤木が驚いたように視線を上げた。

「お兄ちゃまは、本当に美しいひとです。
本当は…私なんかには、似合わない…。
不釣り合いないひとなんです」
「…紗耶さん…?」

「だから…私がお兄ちゃまのお嫁様に選ばれるなんて、思っても見なかった…。
そんなこと、あり得ないもの…。
…あの日…お兄ちゃまからプロポーズされて…私は夢のように幸せでした…」
…あの日の記憶が生々しく甦る。
紗耶の人生で、最も幸せで…そして最も哀しかった日が…。

「…けれど…」
震える薄桃色の口唇が、苦い記憶を擬える。

「…お兄ちゃまの愛する人は、私ではなかった…」
藤木が不審そうに眉を上げた。
「どういうこと…?」

「…お兄ちゃまは、私の母を愛していたのです…」
「…え…?」
息を呑む藤木に、紗耶は寂しげに微笑む。

「…無理もないのです。
母は…本当に美しくて賢くて洗練されていて…眩しいようなひとなのです。
そんな母をお兄ちゃまは密かに愛していて…」

…だから…お兄ちゃまは…

『…貴女の血を受け継いだ紗耶ちゃんを、僕の花嫁にするのです…。
…貴女を…やっと手に入れることができる…!』
紫織を抱きしめながら、熱く掻き口説く千晴の姿…。

…あれは、決して幻ではなかった…!

「…私は、母の身代わりだったのです…」

口に出すと、当時の胸が張り裂けそうな哀しみがまざまざと蘇る。

…そして、いまだに消えぬ疑惑が深く暗い記憶の沼の淵から浮かび上がるのだ。

…本当に…お兄ちゃまはもうお母様を愛していないのだろうか…?
…本当に、私だけを愛してくれているのだろうか…?

「いいえ…今も…もしかしたら…」

長い睫毛が震え、紗耶の瞳から水晶のような涙が零れ落ちる。
それは、ライラック色のスカートに小さな染みを残した…。



/789ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ