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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「…泣かないで…紗耶さん…」
藤木の温かな長い指が紗耶の白い頰を慰撫するように撫でる。
…その手つきに、邪なものはまるでなかった。
優しい…娘を慰める父親のような手つきだ。
「…僕が意地悪なことを言ったから、そんなふうに思うんだよ。
ごめんね。
君を泣かせるつもりじゃなかったんだ。
…君はとても可愛いし、清楚で素直で魅力的だ。
婚約者は、きっと君を愛しているよ。
…その…お母様の身代わりなんかじゃない。
君そのものをね…。
だから、お母様と自分を比べる必要はない」
…押し付けがましくはない…そしてお世辞とは思えない自然な言葉を静かに連ねると、藤木は紗耶に白いハンカチを手渡した。
「…藤木…先生…?」
「涙を拭いて。
綺麗な瞳が赤くなってしまったね…。
うさぎさんみたいだ…」
榛色の瞳が少し戯けるように細められた。
「…あ…ありがとうございます…」
紗耶はハンカチを受け取り、瞼をごしごし拭いた。
「…あのね。
紗耶さんは、あんまり自分に自信がないみたいだけれど…」
「…はい…」
「…君はとても綺麗だよ」
紗耶の手が止まる。
「…それから…なんとも言えない…すべてのひとに赦しを与えるような聖なる雰囲気を持っている。
優しくて…清らかで…そばにいるひとをほっとさせるような何かが、紗耶さんにはある。
それは他の女の子にはないものだ。
…多分、そんなところを君の婚約者は愛しているんだと思うよ。
それはきっと、君のお母様とは全く関係ない。
紗耶さんだから…なんだよ」
「……」
新しい涙が溢れてくる。
ハンカチを強く押し付ける。
「…紗耶さんだから、愛されたんだよ」
声を堪えて静かに泣き出す紗耶の頭を、幼子を慰めるように大きな手が撫でる。
「自信を持ちなさい…」
「…先…生…」
紗耶は喉もとに迫り上がる熱い固まりを飲み込む。
…人前で…しかもまだ知り合って日が浅い男に涙を見せてしまった恥ずかしさに耐えきれず、紗耶はわざと乱暴にハンカチで鼻をかんだ。
…そうして、気づく。
「…あ!
こ、これ…先生の…ハンカチ…!」
藤木が愉快そうに吹き出した。
「構わないよ。
君にあげるから、存分にかみなさい」
ハンカチからおずおずと貌を覗かせる。
…榛色の瞳は、紗耶を包み込むように優しく微笑んでいた。
藤木の温かな長い指が紗耶の白い頰を慰撫するように撫でる。
…その手つきに、邪なものはまるでなかった。
優しい…娘を慰める父親のような手つきだ。
「…僕が意地悪なことを言ったから、そんなふうに思うんだよ。
ごめんね。
君を泣かせるつもりじゃなかったんだ。
…君はとても可愛いし、清楚で素直で魅力的だ。
婚約者は、きっと君を愛しているよ。
…その…お母様の身代わりなんかじゃない。
君そのものをね…。
だから、お母様と自分を比べる必要はない」
…押し付けがましくはない…そしてお世辞とは思えない自然な言葉を静かに連ねると、藤木は紗耶に白いハンカチを手渡した。
「…藤木…先生…?」
「涙を拭いて。
綺麗な瞳が赤くなってしまったね…。
うさぎさんみたいだ…」
榛色の瞳が少し戯けるように細められた。
「…あ…ありがとうございます…」
紗耶はハンカチを受け取り、瞼をごしごし拭いた。
「…あのね。
紗耶さんは、あんまり自分に自信がないみたいだけれど…」
「…はい…」
「…君はとても綺麗だよ」
紗耶の手が止まる。
「…それから…なんとも言えない…すべてのひとに赦しを与えるような聖なる雰囲気を持っている。
優しくて…清らかで…そばにいるひとをほっとさせるような何かが、紗耶さんにはある。
それは他の女の子にはないものだ。
…多分、そんなところを君の婚約者は愛しているんだと思うよ。
それはきっと、君のお母様とは全く関係ない。
紗耶さんだから…なんだよ」
「……」
新しい涙が溢れてくる。
ハンカチを強く押し付ける。
「…紗耶さんだから、愛されたんだよ」
声を堪えて静かに泣き出す紗耶の頭を、幼子を慰めるように大きな手が撫でる。
「自信を持ちなさい…」
「…先…生…」
紗耶は喉もとに迫り上がる熱い固まりを飲み込む。
…人前で…しかもまだ知り合って日が浅い男に涙を見せてしまった恥ずかしさに耐えきれず、紗耶はわざと乱暴にハンカチで鼻をかんだ。
…そうして、気づく。
「…あ!
こ、これ…先生の…ハンカチ…!」
藤木が愉快そうに吹き出した。
「構わないよ。
君にあげるから、存分にかみなさい」
ハンカチからおずおずと貌を覗かせる。
…榛色の瞳は、紗耶を包み込むように優しく微笑んでいた。