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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
庭園の紅葉樹がすっかり色付いたある週末、徳子の招きを受けて千晴と紗耶は離れの屋敷を訪れた。
大客間のマントルピースには、早くも暖炉の火が入っていた。
…古い煉瓦造りのこの屋敷は、夏でもひんやりと冷気が漂うからだ。
「話はほかでもありません。
貴方がたの婚約式のことです」
徳子の居丈高な物言いは相変わらずだが、どこか浮き浮きしたような陽気な様子が見て取れた。
山葡萄色のベルベットの上着と黒檀色のスワロフスキーが更にその気位の高さを象徴しているかのように鈍く輝いていた。
紗耶は準正装した千晴と並び、やや緊張した面持ちで畏って着席していた。
…撫子色のワンピースのスカートに皺が寄らないように、そっと手を組む。
徳子とはかつての秘密を共有し、気心が知れてきたとはいえ、面と向かうとやはりその女王然とした気高さと気迫に威圧され、圧倒されてしまうのだ。
「婚約式は11月の千晴さんのお誕生日に執り行うことにいたしましょう。
一族の皆を招待して大々的に行います。
紗耶さんの初めてのお披露目ですもの。
盛大に行わなくてはね」
紗耶は息を呑んだ。
「…婚約式…ですか…」
まさかそんな式があるとは知らなかった。
結婚式は紗耶が大学を卒業してから…とだけ聞いていたから、いきなりの話に戸惑ってしまったのだ。
「話してなかったかな。ごめんね。紗耶ちゃん」
千晴は優しく詫び、そっと手に手を重ねた。
「…高遠家の当主の婚約は親族一堂の前で誓いを立てて、承認されなくてはならないんだ。
遥か昔からの古いしきたりだけれどね」
「大切なしきたりですよ。
千晴さんのお父様…私の息子・千聖もそうやって皆に認められ、結婚したのです。
…今度は千晴さんの番なのね…。
感慨深いわ。
天国の千聖も花織さんもきっとどれだけ喜んでいることでしょう」
千聖と花織が不慮の事故で亡くなった後、親代わりに幼い千晴を育て上げたのは徳子だ。
自分の言葉に感激したのか、珍しく徳子はスワトウのレースのハンカチで目頭を押さえた。
大客間のマントルピースには、早くも暖炉の火が入っていた。
…古い煉瓦造りのこの屋敷は、夏でもひんやりと冷気が漂うからだ。
「話はほかでもありません。
貴方がたの婚約式のことです」
徳子の居丈高な物言いは相変わらずだが、どこか浮き浮きしたような陽気な様子が見て取れた。
山葡萄色のベルベットの上着と黒檀色のスワロフスキーが更にその気位の高さを象徴しているかのように鈍く輝いていた。
紗耶は準正装した千晴と並び、やや緊張した面持ちで畏って着席していた。
…撫子色のワンピースのスカートに皺が寄らないように、そっと手を組む。
徳子とはかつての秘密を共有し、気心が知れてきたとはいえ、面と向かうとやはりその女王然とした気高さと気迫に威圧され、圧倒されてしまうのだ。
「婚約式は11月の千晴さんのお誕生日に執り行うことにいたしましょう。
一族の皆を招待して大々的に行います。
紗耶さんの初めてのお披露目ですもの。
盛大に行わなくてはね」
紗耶は息を呑んだ。
「…婚約式…ですか…」
まさかそんな式があるとは知らなかった。
結婚式は紗耶が大学を卒業してから…とだけ聞いていたから、いきなりの話に戸惑ってしまったのだ。
「話してなかったかな。ごめんね。紗耶ちゃん」
千晴は優しく詫び、そっと手に手を重ねた。
「…高遠家の当主の婚約は親族一堂の前で誓いを立てて、承認されなくてはならないんだ。
遥か昔からの古いしきたりだけれどね」
「大切なしきたりですよ。
千晴さんのお父様…私の息子・千聖もそうやって皆に認められ、結婚したのです。
…今度は千晴さんの番なのね…。
感慨深いわ。
天国の千聖も花織さんもきっとどれだけ喜んでいることでしょう」
千聖と花織が不慮の事故で亡くなった後、親代わりに幼い千晴を育て上げたのは徳子だ。
自分の言葉に感激したのか、珍しく徳子はスワトウのレースのハンカチで目頭を押さえた。