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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「…お祖母様…。お泣きにならないでください。
お祖母様に僕の花嫁となる方をお目にかけられることができて、僕は幸せです。
今の僕があるのは、すべてお祖母様のおかげですから」
しなやかに席を立った千晴は、恭しく徳子の前に跪きその黒いレースの手袋に包まれた手を取った。
「…千晴さん…」
騎士が大切な女王陛下に敬愛の情を表すかのようなその仕草に、徳子の猛禽類のように鋭い眼差しが恋する乙女のように甘く潤む。
徳子にとって千晴は自慢の孫だ。
分けてもその日本人離れした麗しく煌々しい容姿に、かつての恋人を重ね合わせることもあるのではないだろうか。
…徳子にとって千晴は特別な存在なのだ。
「…お祖母様には、僕と紗耶さんの子どもを抱いていただくまでは…いいえ、その先もずっとずっとお元気でいていただかなくてはなりませんからね」
手の甲に敬愛のキスをされ、徳子は砂糖菓子のように甘い眼差しで千晴に笑いかける。
「まあ、それは大変。
せいぜい長生きできるように、老体に鞭を打って努めなくてはね…」
「お祖母様はまだまだお若いですよ。
お若くてお美しい。
僕が小さな頃から少しもお変わりにはならない。
お祖母様にはいつまでもお元気でいていただき、紗耶さんに御台所の心得を直接教えて差し上げてください。
心よりお願い申し上げます」
…ね?紗耶ちゃん…。
と、千晴の美しい鳶色の眼差しが紗耶を促す。
「…は、はい。よろしくお願いいたします。
お祖母様」
頭を下げながら、紗耶はきゅっと白い手を握りしめた。
…千晴は徳子の誰よりも熱い信奉者だ。
母のように、父のように、師のように、心から慕っているのだろう。
千晴は物心付く前に両親を亡くしたのだ。
徳子が唯一の近しい肉親なのだ。
徳子に濃い敬愛と親愛を示して当然なのだ。
…そう分かっているはずなのに…どこか胸の内がざわざわと騒つく自分がいる。
「…紗耶さんには私が婚約式に身に付けたドレスをお譲りしましょう。
エリザベス女王の専属デザイナーが拵えたペールブルーの最高級のレースのドレスですよ。
清楚な貴女にきっとお似合いになるわ」
徳子はにっこりと笑うと、優雅な仕草でロイヤルアルバートのオールドカントリーローズのティーカップを持ち上げたのだった。
お祖母様に僕の花嫁となる方をお目にかけられることができて、僕は幸せです。
今の僕があるのは、すべてお祖母様のおかげですから」
しなやかに席を立った千晴は、恭しく徳子の前に跪きその黒いレースの手袋に包まれた手を取った。
「…千晴さん…」
騎士が大切な女王陛下に敬愛の情を表すかのようなその仕草に、徳子の猛禽類のように鋭い眼差しが恋する乙女のように甘く潤む。
徳子にとって千晴は自慢の孫だ。
分けてもその日本人離れした麗しく煌々しい容姿に、かつての恋人を重ね合わせることもあるのではないだろうか。
…徳子にとって千晴は特別な存在なのだ。
「…お祖母様には、僕と紗耶さんの子どもを抱いていただくまでは…いいえ、その先もずっとずっとお元気でいていただかなくてはなりませんからね」
手の甲に敬愛のキスをされ、徳子は砂糖菓子のように甘い眼差しで千晴に笑いかける。
「まあ、それは大変。
せいぜい長生きできるように、老体に鞭を打って努めなくてはね…」
「お祖母様はまだまだお若いですよ。
お若くてお美しい。
僕が小さな頃から少しもお変わりにはならない。
お祖母様にはいつまでもお元気でいていただき、紗耶さんに御台所の心得を直接教えて差し上げてください。
心よりお願い申し上げます」
…ね?紗耶ちゃん…。
と、千晴の美しい鳶色の眼差しが紗耶を促す。
「…は、はい。よろしくお願いいたします。
お祖母様」
頭を下げながら、紗耶はきゅっと白い手を握りしめた。
…千晴は徳子の誰よりも熱い信奉者だ。
母のように、父のように、師のように、心から慕っているのだろう。
千晴は物心付く前に両親を亡くしたのだ。
徳子が唯一の近しい肉親なのだ。
徳子に濃い敬愛と親愛を示して当然なのだ。
…そう分かっているはずなのに…どこか胸の内がざわざわと騒つく自分がいる。
「…紗耶さんには私が婚約式に身に付けたドレスをお譲りしましょう。
エリザベス女王の専属デザイナーが拵えたペールブルーの最高級のレースのドレスですよ。
清楚な貴女にきっとお似合いになるわ」
徳子はにっこりと笑うと、優雅な仕草でロイヤルアルバートのオールドカントリーローズのティーカップを持ち上げたのだった。